第6回で紹介したサイコロジカル・リカバリー・スキル(SPR)は、主として精神保健領域の専門家である対人援助職が用いることを想定したものです。一方、初期対応で用いる心理的応急処置(PFA)以外にも、非専門家である周囲の大人(親や教師)が子どもの心のサポートのためにできることがあります。
①子どもの話を聴くときに使えるスキル
・「傾聴」:第5回でも紹介しましたが、とても大切なスキルです。子どもがトラウマを体験した後に、身近な大人が子どもの反応を真剣に受け止めたか、子どもが本当のことを話していると信じていたか、子どもの要求にどのように対応したかといったことは、トラウマ反応からの回復に影響を与える要因となります。
・「正常化」:大きなストレスやトラウマ後に生じるさまざまな反応に対して、「気が変になりそうだ」「おかしくなってしまった」「自分は弱虫だ」などと、苦痛を伴うやり方で(誤った)解釈をしている場合があります。そのような場合、「大きなストレスやトラウマを体験した後に生じる当たり前(=正常)な反応である」というメッセージを伝えることは、自らの反応を正しく理解する助けになります。
・「一般化」:同様に、自分自身の反応を病的に解釈すると、こうした反応に伴う不安が増大する可能性があります。「あなた以外の多くの人が同じような反応を示している(=「一般化」)」と伝えることは、二次的な反応を防ぎ、不安や苦痛を和らげることにつながります。
②心と身体に働き掛けるリラクセーションスキル
不安や恐れ、イライラ、眠れない、食欲の変化、頭痛・腹痛などの心と身体の反応を和らげるためのスキルです。自分の力で不安や緊張をコントロールできる体験は、自分に対する肯定的な評価を高め、回復に役立ちます。
・呼吸法(図1):緊張や不安が高くなると、浅い胸式呼吸になります。深い腹式呼吸を行うことで、リラックス状態へ導きます。お腹の上に手を置いて、ゆっくりと吐く息に注意を向けるようにしましょう。
図1 リラクセーション法 呼吸法
・筋弛緩(しかん)法(図2):呼吸法に比べると少しコツは要りますが、一度ぐっと力を入れて緊張状態をつくった後、一気に力を抜きます。
図2 リラクセーション法 筋弛緩法
こうしたスキルは、子どもたちだけではなく大人に対しても効果が認められています。子どもの周りの大人の方々も、ぜひ活用してみてください。