【先生が幸せに働くためにできること(5)】妊婦のクラスは荒れるよ

【先生が幸せに働くためにできること(5)】妊婦のクラスは荒れるよ
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 「妊婦のクラスは荒れるよ」

 かつてそんなことをベテランの先生に言われたことがある。

 「どうしても自分の体のことで休みがちになってしまうでしょ?そうするとね、子どもたちが『自分たちを大切にしてもらえていない』って思ってしまうんだよ。だからどんどん子どもたちとの距離ができてクラスが大変になってしまうんだよ」と。

 「なんてことを言うんだろう。そんなことあるわけないじゃないか」

 言われたときはそう思っていたくせに、いざ自分が妊娠したらその言葉が引っ掛かってしまった。つわりが苦しくて早退してしまったときは、「もう少し我慢してあげればよかった」と思った。また、どうしても土曜日に妊婦健診が取れなくて平日に早退したときは、「どうにか日程をずらして無理にでも土曜日にすればよかった」と思った。「こういう一つ一つのことが、どんどん子どもたちとの距離を生んでしまうのだろうか…」と。

 そうして悩んでいたことに気付いてくださったある保護者の方が、私にこう声を掛けてくださった。

 「私たちは親だから、おそらくほぼ全員妊娠経験者です。みんなね、妊娠中は大切に大切に、無理のないようにってしてもらいながら過ごしました。だからね、先生も大切に大切に無理のないようにしてもらうのは私たちにとって当然のこと。そういう社会と思ってください」

 ありがたさとうれしさと安堵で胸がいっぱいになった。あの時の温かい言葉が、「妊婦のクラスは荒れる」という言葉に縛られていた私を温かく包み込んでくれた。

 子どもたちは私が産休に入る前日まで、ずっとずっと温かかった。お腹に手を当てて話し掛けてくれる子がいた。私の姿と自分の親を重ね合わせて、親への感謝の気持ちを話す子もいた。そうやって温かいクラスで無事産休を迎えることができたのは、周りの先輩方が温かく大切に見守ってくださったからだと思う。

 妊娠をして分かったことがある。一人では子どもを育てられないのは、妊娠している最中も同じだということ。つわりがひどくて家事は全て家族にお願いし、仕事へ行ってもつらいときは早退したり休んだり。重いものは持ってもらい、高い所にある物は取ってもらい、一番暖かい場所に連れて行ってもらいと、やってもらうことばかりだった。そうやって、大切に大切に無理のないようにしてもらわなければ、きっと私もお腹の中の赤ちゃんも苦しかったと思う。子どもは社会で、いろんな人に育てられているんだと強く感じた。

 大切に大切に無理のないようにしてもらった私。それを当然の社会にするために、今度は私が大切に大切にしてあげよう。目の前にいる妊婦さんに。目の前にいる全ての人に。

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