連載の終わりに、私の個人史からデジタルテキストに込めた願いを、簡単に述べたいと思います。詳細は、「生徒指導提要の改訂に関する協力者会議」(第9回)議事要旨をご覧ください。
協力者会議の最終回で、私は「デジタルテキストに命を懸けて取り組もうと思っている」と宣言しました。その時、すでに命懸けでした。デジタルテキストはLaTeX(ラテック)という科学論文作成ソフトで作成し、その知識と技術は私一人しか持っていません。そのため、平均睡眠時間は2時間、最終回以降の3カ月の睡眠時間は1時間かゼロ。トータル4000時間をかけて、大学の本務と同時並行で、一人で作成しました。なお、謝金はなしです。
なぜ、命を懸けたのか、背景には私の原体験があります。50年以上前に小学校で暴力的ないじめを受けて、命を守るために、今で言う不登校を選択しました。その後、不幸は続くもので、親の難病もあって、小学校低学年から今で言うヤングケアラーも20年以上経験しました。高校から大学院博士課程まで、日本育英会の奨学金を受けて何とかここまで来ました。そうした原体験から、私は大学の学部卒業論文ではアメリカの少年非行を研究し、大学院では当時まだ学問として認知されていなかった生徒指導を研究テーマにしました。そうして現在まで、40年近く研究をしてきました。
今回、文科省からお声掛けがあり、座長を引き受けた時から、2つの思いがありました。第1は、いじめなどで子どもが自死するような悲劇を食い止めることであり、苦境に立つ子どもを救うには、教職員の生徒指導に対する考え方や方法を変えてもらうのが近道であること。第2に、内容を周知するには、現状の人々の生活スタイルを考慮すると、デジタルテキストにする以外にないということです。前者は、委員や執筆協力者のお力添えもあって達成可能でしたが、後者は大学の仕事をしながらデザインや組版をゼロからやらねばならず、気が遠のくほどのいばらの道でした。しかし、自分の命と引き換えに本書が使われ、悲劇の連鎖に歯止めがかかるのであれば本望という覚悟で臨みました。
私も同業なので、先生方の忙しさや苦悩も理解した上で、本書を活用して生徒指導を見直していただけないかと願っています。子どもたちは歳を重ねながら、同時に私たちの未来を創ります。私たちの仕事は、未来志向です。故湯川秀樹先生が言われた「一日生きることは、一歩進むことでありたい」と思います。長らく、どうもありがとうございました。
(おわり)