これから10回の連載で、災害と子どもの安全保障について書かせていただきます。読者の皆さんは、教育に携わる方々が多いと思いますので、災害時、子どもたちがどのような状況に置かれるのか、おそらくイメージをお持ちになることができるかと思います。未曽有の被害をもたらした2011年3月の東日本大震災。その後も日本国内では毎年のように、地震、台風、集中豪雨、土砂災害などさまざまな災害が続いています。東日本大震災における宮城県石巻市の大川小学校のようなことは、二度と起こしたくないと考えていらっしゃる方も多いかと思います。
この連載では日本の子どもたちのことだけでなく、世界の災害と子どもの安全保障についても考えていきます。最近もトルコとシリアの国境沿いでマグニチュード7.8の大きな地震があり、5万人以上の方々(23年2月26日現在)が犠牲になりました。多くの子どもたちが亡くなり、親や兄弟姉妹、親戚など大切な家族や家を失った子どもたちがたくさんいます。
日本では災害というと自然災害を想像する人が多いですが、紛争や原子力災害など人為的災害もあります。昨年2月のロシアによるウクライナへの侵攻から約1年がたちました。突如として平和な暮らしを奪われ、住み慣れた地域や家を追われ、近隣国や日本に避難して来ている人々、戦場にいる家族の安否を毎日心配している人々がいることに思いをはせたいと思います。
子どもの安全保障とは、1994年に国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書」で示された、国家の安全に対峙するものとして人間一人一人のウェルビーイングを大切にする「人間の安全保障」という考え方に基づくものです。貧困や暴力に苦しんでいるなど、今脆弱(ぜいじゃく)な環境にある子どもたちでなくても、ある日突然、災害が起きて日常が奪われることがあります。災害が起きると子どもたちを守る大人にも余裕がなくなり、子どもの権利が守られにくい状況になります。
災害が起きたとき、できるだけ子どもたちが安心・安全を感じられるような状態をつくり出せるように、子どもたちや周囲の大人のレジリエンスを高めておくことが重要です。レジリエンスは強靭(きょうじん)性と訳され、ゴムボールを思い浮かべると分かりやすいのですが、危機的状況においてストレスなどの圧力がかかっても跳ね返せる「回復力」のことです。
災害は予測できないものです。いつどこで次の災害があるか分かりません。「Build Back Better」(災害前よりも良い状態へ)という考え方があるように、子どもたちにとってより良い復興が目指され、SDGsのゴール11「住み続けられるまち」が実現されるように、この連載を通して災害と子どもの安全保障について考えていただければと思います。
【プロフィール】
小野道子(おの・みちこ)東洋大学社会学部社会福祉学科准教授。研究領域は、子どもの安全保障、子どもの権利、災害時の子ども支援(日本、パキスタン、バングラデシュ)。2001年から04年までJICAジュニア専門員(教育とジェンダー担当)、04年から10年までUNICEF職員(在ネパール南アジア地域事務所子どもの保護官、パキスタン事務所子どもの保護専門官)、11年から16年まで日本ユニセフ協会東日本大震災緊急支援本部子どもの保護アドバイザー。18年よりNPO法人災害時こどものこころと居場所サポート理事(21年より代表理事)。