最近のいじめの特質は、一定の人間関係がある集団の中にいじめとの境界線があいまいな「いじり」が顕著となり、かつネットの中でもそうした関係がまん延し始めたことです。こうした現状は以下の2つの問題点を抱えています。そこで、ネットいじめも含めたいじめ全般を俯瞰し、その抑止に向けた方略に言及してみましょう。
1つ目は、インターネットやケータイがもたらす「全能感」と、周囲からの承認欲求の強さの問題です。今、子どもたちはネットなどから得られる莫大(ばくだい)な情報とそこへ自由にコミットできる発信機会を持つことによって、ある種の全能感を享受することができます。さらに、自分が発信した情報に、他者からの「イイネ!」を欲しがる承認欲求は高く、ネット上ではリアルとは別人格を演じることも可能です。対面でのコミュニケーションが不要な空間では、自分が傷つかずに相手とやりとりをすることが可能なので、嫌ならいつでも一方的に退場できます。こうした利便性から、現実世界よりもむしろネット上での親密なコミュニケーションを選好する子どもたちは決して少なくありません。
2つ目は、ネット上では関西学院大学の鈴木謙介が指摘する「ネタ的コミュニケーション」が可能なことです。ネット上はさまざまな話題に対して双方向的にコミュニケーションが取れる空間ですが、現実世界と決定的に異なるのは、相手のことを考えずに、時にKY(空気が読めない)でもいられることです。話題がそれても文脈がつながらなくても、自分の言いたいこと(ネタ)を一方的に書き込みとして並べることができます。掲示板などは必ずしも相手の含意をくんで真面目に答える必要がなく、全てが「ネタであるかのように」振る舞い、それが事実かどうかよりも、つながりたい感覚や感情を優先して衝動的に書き込める場なのです。従って、負の感情が湧き起こった場合に、それが他者否定のいじめ感情へと転化する可能性は大きいと言えます。
こうしたネット世界の特質が、ネットいじめの背景にあります。対面よりも、ネット上でのコミュニケーションを重視し、さまざまな書き込みを「ネタ」として扱うことに慣れてしまった子どもたちにとって必要なのは、やはり原点に戻って対面でのコミュニケーション機会をできるだけ多く持つことではないでしょうか。
ネットいじめの被害に遭う子は、現実世界でもいじめの被害者である場合が多い傾向があります。ならば、その解決に向けての方略は、リアルいじめもネットいじめも根の部分は同種であると考えるべきでしょう。すなわち、保護者や地域を巻き込み、子どもがさまざまな場面で他者と対面でやりとりをし、自分の意見を面と向かって話す、「ベタ」なface to faceの関係をできるだけ多く「仕掛け」ることが、時間はかかってもいじめを少しでも減じることになるのではないでしょうか。