子どもたちが利用するネット空間の変化にコロナ禍での自粛生活が加わったことで、ネットいじめの量的・質的変化がもたらされたことは、これまでの連載で見てきたような調査結果からも明らかだと考えられます。こうしたネットいじめの発生率の高さの要因として、子どもたち自身も説明できない「生きづらさ」がまん延していることを指摘したいと思います。
文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(2021)の結果を見ると、不登校の児童生徒数は過去最高の24万4940人(前年度19万6127人)に上り、コロナ禍となる以前から増加傾向が続いていることが明らかとなっています。東京外国語大学の加藤美帆はこうした不登校者数の増加について、不登校の数が2010年代から高止まりの状態が続いており、コロナ禍によって再拡大したと指摘しています。不登校児童生徒は年間30日以上の欠席者しか統計結果として公表されることはありませんが、日本財団の調査(2018)によると、欠席がちな児童生徒やグレーゾーンにいる不登校予備軍は約33万人存在するとも指摘されています。このような不登校予備軍と実際の不登校児童生徒を含めると、学校に行きにくい児童生徒は50万人を超えるとも言われています。
私たち大人はこうした青少年の「生きづらさ」に目を向ける必要があります。本来であれば楽しい学校生活を送れたはずなのに、コロナ禍による自粛生活や学校生活の制限は、子どもたち自身の「なんとなくしんどい」とった声に表されているように、子どもたちの心身に影響が出ていると考えられます。国立成育医療研究センター(2022)の調査では、小学4~6年生の10%、中学生の22%、高校生の23%に、中等度以上のうつ症状があることが確認されています。また、悩みがあっても小学4~6年生の29%、中高生の50%が「誰にも相談しないでもう少し自分で様子をみる」と回答しています。子どもたち自身もつらさの原因が分からず相手に説明できないため、緊急避難的に「不登校」を選択しているとも考えられます。
今後は子どもたちの「生きづらさ」を形成するものとして何が想定されるのか、それらを探索的に分析する必要があります。コロナ禍によって鮮明になった子どもたちの「SOS」に対して、われわれは実証研究からアプローチを試み、子どもたちの「生きづらさ」を軽減するためにはどんな知見が必要なのか、議論をする時期に来ているのではないでしょうか。
(おわり)