HSPブームがもろ手を挙げて歓迎すべき現象であるかどうかと言えば、実はそうではありません。あまり注目されていませんが、2019年ごろから加速したHSPブーム以降、それに伴うさまざまな問題が目立ち始めるようになりました。今回はそのことについて触れたいと思います。
まずは、一部の精神科クリニックによるHSP診断ビジネスです。本連載でこれまで紹介してきたように、HSPは新たな疾患名ではなく、それ故に「診断」基準が存在しないラベルです。にもかかわらず、一部の精神科クリニックは「HSPを脳波で診断できる」などとうたい、自由診療の下そのような行為を行っています。
無論、HSPの脳波診断に学術的な根拠はありません。そうしたクリニックのサイトを見ると、HSPの「診断」をきっかけに、脳に磁気刺激を与えるTMS治療を受けるよう誘導しているものもあります。一部のHSP自認者には自分がHSPであることを正式に診断されたいというニーズがあり、それを一部のクリニックが供給しているというわけです。「生きづらさ搾取ビジネス」だと言えます。
「HSPグレーゾーン」「HSPうつ」なる言葉を作り出し、それに対する検査や治療を勧める精神科クリニックもあります。そうしたクリニックは、発達障害に対する診断ビジネスでも問題視されています。例えば、著名な芸能人が自身のYouTubeチャンネルで「脳波で自身がADHD(注意欠如・多動症)であることが診断された」と公表しました。しかしその後、専門家たちが指摘したように、脳波の特徴をもってADHDであるか否かを診断することはできません。以前からそのような発達障害の診断ビジネスを行ってきたクリニックが、HSPブームに乗じて「HSP脳波診断ビジネス」を始めたというわけです。
HSP診断ビジネスの他に、「HSP専門カウンセラー」資格ビジネスも目立ち始めています。「HSPのあなただからこそ、心理カウンセラーが向いている」「HSPは才能である」などとうたい、数時間の講習で資格を得ることができます。専門家から見ると、それらの講習内容の専門性は著しく低いと言わざるを得ません。そうして得た資格を基に、カウンセリング業を営もうとする方は実際にいます。うつ病をはじめ、心の問題は死にも深く関わります。専門性の低い人が心理カウンセリングを行うには危険が伴います。