創価大学教育学部専任講師
マスメディアがHSPを特集したことなどを通じて、2019年ごろからHSPは社会で急速に認知されるようになりました。それに伴って、書籍やネット記事、SNSなどでHSPにまつわる多くの情報が発信され、現在もHSPブームの最中にあります。10年前とは異なり、今ではHSPに関する情報を簡単に手に入れることができるでしょう。
社会で広まったHSPの言説には、「HSPは生まれ持った特性」というものがあります。これは本当なのでしょうか。実際のところ、この説明には注意が必要です。なぜなら、感受性それ自体も発達的に形づくられる特性だからです。
一部の書籍では、HSCというラベルが「学校になじめない子ども」「不登校気味の子ども」という文脈で使用されています。しかし、「HSC=不適応的な子ども」という理解は、学術的に見て不適切です。前回述べたように、感受性の高い子どもは、彼らを取り巻く環境から「良くも悪くも」影響を受けやすいだけなのです。
ここまで述べてきたように、社会では「HSP=生きづらい」という側面に高い関心が寄せられています。この文脈では「生きづらさ」の原因に「HSPである」ことを求めがちで、「どのような環境に置かれているのか」という視点が不足しているように見えます。
学校現場にはHSP・HSCラベルが入り込み始めており、一部の教員が「あの子はHSCっぽいよね」と診断的にこのラベルを用いるケースがあるようです。また、一部の教育委員会が生徒指導の方針として「HSCへの対応」を明文化しており、もしかするとこの流れは全国的に広がる可能性もあります。
HSPブームがもろ手を挙げて歓迎すべき現象であるかどうかと言えば、実はそうではありません。あまり注目されていませんが、2019年ごろから加速したHSPブーム以降、それに伴うさまざまな問題が目立ち始めるようになりました。今回はそのことについて触れたいと思います。
社会で広まったHSPの考え方は、名状し難い「生きづらさ」をうまく代弁し、人々に受け入れられました。HSPという言葉と出合った人の中には「それまでの生きづらさがふに落ちた」と語る人もいます。事実として、HSPブームは一部の人々にとっては歓迎すべき現象だったと言えるでしょう。
前回、心理学の研究でHSPがどのように考えられているのかを紹介しました。すでにネットや書籍でHSPを知っていた方は、自分が知っているHSPの考え方とは違った説明のように感じたかもしれません。その感覚は正しいと言えます。なぜなら、ネットや書籍で説明されるHSPは多くの場合、学術上の考え方とはズレているためです。
私たちは一人一人感受性の程度が異なります。子どもを例に挙げてみると、子どもの心理社会的な発達にとって、家庭や学校は重要な環境です。ただ、そうした環境からどの程度影響を受けやすいか(感受性)には、個人差があるのです。例えば、ストレスの多い学校環境である場合、そこから影響を受けやすい子どももいれば、そうではない子どももいます。
近年、HSPあるいはHSCという言葉が学校現場に入り込み始めています。それぞれHighly Sensitive PersonとHighly Sensitive Childを略した言葉です。その意味については本連載でご紹介しますが、直訳すれば「とても感受性が高い人(子ども)」になります。2019年頃から、この言葉はマスメディアを通じてブームになり、23年現在もそれは続いています。
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