学校現場にはHSP・HSCラベルが入り込み始めており、一部の教員が「あの子はHSCっぽいよね」と診断的にこのラベルを用いるケースがあるようです。また、一部の教育委員会が生徒指導の方針として「HSCへの対応」を明文化しており、もしかするとこの流れは全国的に広がる可能性もあります。
しかし、筆者はこのような動向を懸念する、もしくは慎重な立場にあります。少なくとも、定義が不明瞭なままHSP・HSCラベルを学校現場で使おうとすると、むしろ子どもにとってマイナスに働くことが予想されるからです。HSP・HSCの考え方自体は、子どものより良い発達を支援したり理解したりする上で役に立ちます。筆者自身がこの分野の研究者であり、その可能性を信じています。
しかし、学校現場でのHSP・HSCラベルの使用例は、現在のところ学術的な考え方を踏まえておらず、「学校になじめない子ども」「不登校の子ども」など「生きづらい子ども」に対して貼られている状況です。以前の回でも述べたように、学術的にHSP・HSCとは感覚処理感受性という心理的特性が相対的に高い人たちのことで、ストレスフルな環境からはよりネガティブな影響を、サポーティブな環境からはよりポジティブな影響を受けやすい人を意味します。
もし、HSP・HSCのラベルを生かすのであれば、それは子どもにとって有益になる形で行われるべきです。教員や保護者が子どもに対して安易にHSCラベルを貼ることで、問題を抱える子どもの状態を「その子どもがHSCだから」と分かった気になり、問題を生じさせている背景を十分に分析せず、目を背けてしまっては本末転倒です。そうなるのであれば、ラベルは害でしかありません。
HSP・HSCというラベルをきっかけに、子どもの神経的・心理的多様性に目を向け、それを教育活動に生かすことができれば、ラベルは役に立つでしょう。とはいえ、HSP・HSCというラベルを通さずとも、子どもの状況を見極め、有効な環境調整を模索することはできます。
まずやるべきことは、HSCかどうかを「診断」することではありません。子ども自身が持つ要因(性格や気質、体質)や子どもを取り巻く環境(家庭や学校、地域)について情報を収集し、他の教員や保護者、スクールカウンセラーなどの専門家などと協働することです。すでにHSP・HSCラベルを使用している学校関係者の方は、なぜこのラベルを使用する必要があるのか、今一度考えてみてほしいと思います。