一部の書籍では、HSCというラベルが「学校になじめない子ども」「不登校気味の子ども」という文脈で使用されています。しかし、「HSC=不適応的な子ども」という理解は、学術的に見て不適切です。前回述べたように、感受性の高い子どもは、彼らを取り巻く環境から「良くも悪くも」影響を受けやすいだけなのです。今回は、HSCに対する不適切な理解を反証することを意図して、感受性の高い子どもほど、学校環境の改善によって恩恵を受けやすいことを紹介します。
まずは、高校進学に関する筆者らの研究を紹介します。一般的に、中学校から高校への学校移行(進学)は、子どもの適応にとってネガティブな影響を及ぼすと考えられています。例えば、高校進学に伴って精神的健康が低くなったり、学業成績が悪くなったりすることが報告されています。このような研究知見は、まさに子どもたちが新しい学校環境への適応に悪戦苦闘している様子を描いていると言えるでしょう。
ともすると、感受性の高い子どもほど、高校進学によってネガティブな影響を受やすいと考えられますが、実際のところはどうなのでしょうか。これを調べた結果が以下の図です。この調査では「学級規模」「友人との関係」「教師との関係」「学校の雰囲気」「授業の難しさ」などが、中学校の時と比べてどの程度「良い方向に」あるいは「悪い方向に」変化したかを生徒に尋ねました。
図が示すように、中学校から高校にかけて学校環境が良い方向に変化したと報告した生徒は、感受性が高いほどその恩恵を受け取り、高校進学の前後で精神的健康が高まったことが分かりました。一方で、感受性が低い生徒は、高校進学を通じて精神的健康が安定している傾向が見られました。
その他の研究も紹介します。お茶の水女子大学の岐部智恵子講師の研究チームは、高校生を対象にレジリエンス心理教育プログラムを授業内で行いました。このプログラムは、ストレスや心の健康に関わる心理学の知識やスキルを学び、困難な経験から回復するための力を高めることを目的としています。1回50分のプログラムを合計6回実施した結果、感受性の高い子どもほど、プログラムの前後で自尊感情が高まり、抑うつ症状が低くなることが明らかにされました。
こうした研究知見は、感受性の高い子どもの発達にとって、環境を調整することが有効な方法であることを示唆しています。