前回まで学級経営のUD(ユニバーサルデザイン)について述べてきたが、今回からは授業のUDについて具体的な方策を紹介していく。
「聴覚過敏」(その強弱・濃淡は多様)は発達障害に関わりなく、多くの人が抱えると言われる。教室にボイスレコーダーを置いてみよう。たとえ静かに思われる教室であっても、実にさまざまな音が録音されている。
しかし、人間の聴覚は「必要な音(例:教師の説明)」のみを拾おうとする。しかし、「耳が4つあり前からも後ろからも音が入ってきた」という当事者の例えにあるように、過敏さが極端な場合は他の音が邪魔をして聞き取りづらい状況になる。そのため、「邪魔をする他の音」を減らして「聞きやすい話し方」をすることは、どの子にも「あると便利で・役に立つ」UDのポイントである。「静けさは最大の支援」とさえ言われる。「話を静かに聞いている」姿をほめる逆転の発想を大切にしつつ、「聞く名人『あいうえお』※」などの「聞き方」を確認し、「話を聞く」ことの意味(「話を聞いてもらえるとうれしい!」など)を考える学級にしたい。
「長い説明や指示は外国語のようであった」という当事者の声に耳を傾けたい。発達障害の有無に関係なく、聞く活動は難しい。話し言葉は消える上に、終点を見通せないため、そこへの注意集中は実は容易ではない。「一文一動詞」の話し方を大切に、話し言葉をできるだけ減らし、内容の要点に焦点化する。また、必要に応じて板書などで「見える化」する。
教室にビデオを置いてみる。すると、教師の説明や友達の発表を聞くべきときに、ぼーっと窓の外を見ていたり、いたずらや落書きをしていたりする子どもは少なくない。その意味でも「大事な話をします」「書きます、鉛筆です」などの前置きの指示は極めて重要である。聞いていなかった子どもを叱るより先に、話を聞くスタートラインに立てる事前支援を大切にする必要がある。
子どもがノートを取る作業を始めているにもかかわらず、教師が指示をすることがある。これでは、書くことに集中するのか聞くことに集中するのか、焦点化されない状況を招く。「一時」に「二作業」は大人でも困難を伴う。大事な指示であるならば、先に触れたように「鉛筆を置きます」などの前置きをする。それにより、子どもは「聞く」という「一作業」に焦点化する。「聴覚的焦点化」はUDの重要な要件となる。
※「相手を見て」「一生懸命」「うなずきながら」「笑顔で」「終わりまで」の頭文字