今回は、ウェルビーイングという国際的課題に対する日本の動きとして、政府による取り組みなどを見てみましょう。
これまで述べてきたように、OECD(経済協力開発機構)によるウェルビーイング提案は2011年のことでした。日本の政府による主な動きとしては、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(21年6月18日閣議決定)において、効果的な政策形成のために「政府の各種の基本計画等について、Well-beingに関するKPIを設定する」(同方針p.37)と示されたことが挙げられます。以後、各省庁が管轄する基本計画や大規模調査において、ウェルビーイングに関する事項の推進や把握、情報共有が進められています。
「関係省庁におけるWell-being関連の基本計画等のKPI(筆者注:主要成果指標)、取組・予算」(22年10月、内閣府ホームページ)によれば、教育振興基本計画(文科省)、子供・若者育成支援推進大綱(内閣府)、住生活基本計画 (国交省)、スポーツ基本計画 (文科省)において、ウェルビーイングがKPIとともに取り上げられているとされています。
第4期教育振興基本計画においては、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が明示され、全体として指標を伴う16の目標が示されています。目標1の「確かな学力の育成、幅広い知識と教養・専門的能力・職業実践力の育成」では、指標として「OECDのPISAにおいて、科学的リテラシー及び数学的リテラシーについては引き続き世界トップレベルたる現状の水準を維持し、読解力については同水準への到達を目指す。(以下、略)」と示されています。
内閣府では19年から毎年、約1万人を対象とする「満足度・生活の質に関する調査」として主観的指標と客観的指標の関係を分析する調査も行われています。OECDのウェルビーイング指標群の領域に照らした質問が行われており、一部を紹介すると、「生活全体の満足度」5.8、「家計と資産」4.9、「雇用と賃金」4.8、「教育環境・教育水準」5.6、「身の回りの安全」5.8などとなっています。こうした傾向は、OECDの指標結果においても同じです。
すなわち、教育や社会的資本に関わる領域に比べると、家計に関わる経済領域の数値は主観・客観指標ともに芳しくありません。すなわち、経済活動において日本は大きな課題を抱えていると言えます。
では、経済活動を好転させるにはどうしたらよいのでしょうか。本連載の第4回では、ウェルビーイング実現における社会的資本の重要性について言及しました。それは経済活動を含むウェルビーイングであると言え、社会的資本ならびにそれらをつくる教育が好転の鍵になると考えます。10年たてば今の小学校6年生は22才、起業もあり得ます。経済活動の低迷脱出は、教師の仕事と無縁ではないのです。