前回に続き、授業のUD(ユニバーサルデザイン)について具体的な方策を紹介していく。
「書き言葉が第一言語で、話し言葉は第二言語」という当事者の有名な例えがある。視覚情報は「ないと困る支援」の象徴である。見えるものは全体を把握しやすく、終点が分かり再確認もできる。さらに、大きさや色の違いなどによって焦点化を図りやすく、どの子どもにも「あると便利で・役に立つ支援」になる。
その一方で、視覚情報は提示の方法を誤ると「ウォーリーをさがせ!」のように視覚情報過多の状態になる。本来見てほしい情報が不鮮明になる「図地弁別」の困難を招く。「図」としての板書や貼り物を鮮明にするには、「地」としての黒板や教室正面をシンプルにする必要がある。まさに「映画館のスクリーンのように!」という当事者の声に学び、見てほしい情報に視覚的な焦点化を図りやすい状況をつくる。それはどの子どもにも「あると便利で・役に立つ支援」になる。
子どもに「授業中、よく見る物」について選択式のアンケートを取ると、「先生の顔」「黒板」「先生の机」「窓の外」「時計」「友達」などの回答が上がる。自由記述も含めると、思いもよらないものも含め、子どもたちがさまざまな視覚情報をキャッチしていることが分かる。教室という環境は想像以上に「ウォーリーをさがせ!」なのだ。
教室正面の視覚情報を極限まで削る(=カーテンで覆うことも含む)と「見える」ものは「黒板と教師」になり、子どもの集中力は格段に高まる(※)。そこまで極端にせずとも、きれいな教室・黒板・教卓、シンプルな黒板周りなど、教室正面を整えることはUDの大前提である。「視覚的焦点化」の要点は「視覚情報を増やす」ことではなく、「余分な視覚情報を減らす」ことなのだ。
大原則は授業に必要な情報だけを黒板に提示することである。貼り物は「すでに貼っておく」「紙で覆っておく」「部分だけ見せる」など、「見せ方」の工夫も必要になる。加えて、「これを見ます」など前置きの指示も大切にしたい。ICT機器を活用すれば、さらに効果的な「見せ方」が可能になるはずだ。
※実証授業のデータは『通常学級の「特別」ではない支援教育-校内外支援体制・ユニバーサルデザイン・合理的配慮-』(東洋館出版社)を参照。