第2回以降は平和教育の広さを表している作品を取り上げ、戦争と平和の関係とともに、戦争についてあれこれと考えを深め、探究したい。
今回取り上げるものは『ちいちゃんのかげおくり』と『おかあさんの木』である。
『ちいちゃんのかげおくり』(あまんきみこ作、上野紀子絵、1982年)は小学校の国語教科書にも載ったので、授業で読まれた人も多いだろう。
両親と兄の4人暮らしのちいちゃんが父の徴兵前日、みんなで墓参りをした後、広場で青空を生かした「かげおくり」の遊び(地面に映った自分の影を見た後、空を見上げて自分の影の残像を作る)を父に教わり、家族みんなでする。父が出兵後、ちいちゃんは空襲から逃げる途中で一家とはぐれ、見知らぬおじさんやはす向かいのおばさんに助けてもらったりしながら、焼けたお家で1人待つこととなる。その後は干し飯を少しずつ食べながら防空壕で過ごすが、いつの間にか空にいて一面空色の花畑に立っている。そこには父、母、兄が笑いながら立っており、ちいちゃんも笑いながら花畑の中を走りだし、空に消えていく。
『おかあさんの木』(大川悦生作、1969年)も国語教科書に掲載されたので、読者の中には習った人もいるだろう。
ある家にお母さんと7人の息子が生活している。戦争が激しくなると、息子たちが次々と召集される。お母さんは息子が出征するたびにキリの木を植え、それぞれに息子の名前を付けて語り掛け、無事に帰ってくることを願っている。戦争が終わっても誰も帰って来なくとも、絶えずそれぞれの木に語り掛け続ける。その後、行方不明であった五郎が帰って来るが、お母さんは五郎の木にもたれかかって息絶えている。
2つの作品は戦争時に父母、家族が幸せや成長を願って家族で遊んだり木を植えたりし、大きな空やキリの木の育つ様子を描いている。また、ちいちゃんとその父母、7人の息子の成長を願う母の優しい心が描かれている。
青空、キリの木は自然の美しさを示すとともに、美しかった空が戦争の空になって暗い影を落とし、キリの木も家族のよく育つ姿を表している。両作品ともに子の成長という親の願いに関して、『ちいちゃんのかげおくり』では空から、『おかあさんの木』ではそれぞれのキリの木とともに、父親や母親の心の広さ、寛容さを描いている。これらの作品は戦争を背景にして、人や家族の心の広さ、温かさの重みを知らせている。