【北欧の教育最前線】教室のおしゃれ家具の裏事情(後編)

子供たちが使う家具には高い安全性が求められる。また、その多くは税金で購入されるために、ぜいたくは許されない。一方で、機能性を重視するあまり、無機質で味気ないものになったり、頑丈さを重視するがゆえになかなか壊れず、いつまでも買い替えられずに時代遅れになったりしてしまうこともある。

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カーペットの掃除に多額の税金

エンショッピン市では昨年、学校の掃除に年間1100万クローナ(約1億3000万円)を支出した。これは教員20人分の給与に相当する。市の学校には布製のソファやカーペットが約5000点あり、清掃員は毎日これに掃除機をかけなければならない。

アレルギーを持つ子供たちもいるため、学校の清掃には厳しい基準が設けられている。地元新聞では、学校におしゃれな布地の家具が必要なのか考え直すべきだという意見記事が掲載された。

「家具スキャンダル」

ラホルム市の基礎学校では、昨年から「家具スキャンダル」が報じられている。市が公募入札をした際には、AJ Produkter社が最も安い91万3000クローナ(約1000万円)で応札したが、どういうわけか次点のInput Interior社が118万3000クローナ(約1350万円)で落札したのだ。

廊下に設けられた学習スペース

市は仕様書に、上下に高さが変えられる机を納入することを要件に入れたが、AJ Produkter社はその要件を満たしていなかったため次点候補が選ばれた、と説明した。しかし、AJ Produkter社側はこの要件を満たしていたと主張している。

問題なのは、この過程の議事録が残されておらず、誰がどの場で意思決定をしたのかが明らかでないことだ。ラホルム市の野党議員たちは、一連のプロセスが公共調達法や地方自治体組合の包括契約規定に反するとして、関係者に説明を求めている。

AJ Produkter社は入札手続きの妥当性を問う訴訟を起こしている。Input Interior社はすでに学校に家具を運び入れているが、AJ Produkter社や近隣住民は判決が出るまで搬入をやめるべきだと市に求めている。訴訟で入札結果が覆った場合、市は巨額の賠償責任を負うことになる。また、これらの混乱によって、学校施設の利用開始に遅れが出ている。

家具メーカーの販売戦略

学校に家具を納入するメーカーは、「実験」と称する営業活動を各地で仕掛けている。ある基礎学校では、1つの教室に家具メーカーから提供された最新の家具を設置し、隣の教室はこれまで通りの環境で授業を行った。そして、10月と12月に児童と教師にアンケートを採り、物理的環境が学習に与える影響を調べた。

アンケートでは「教室にいて心地よい」「教具の片付けが上手にできる」「自分のものを整頓している」などの質問がされたが、家具メーカーの期待に反して、新しい家具を導入したクラスの子供たちは、実験開始前よりもネガティブな変化があった。一方で、これまで通りの教室環境で学ぶ子たちは、片付けや整頓がよりうまくできるようになったと回答している(Axelson et. al, 2019)。

家具メーカーは、実験に協力する見返りとして、3カ月の実験後にそれらの家具を定価の半額で購入できるオプションを提案していた。しかし、この学校ではこれらの家具のほとんどを購入せず、もとの状態に戻してもらうことを選択した。

購入に至らなかった具体的な理由はいくつかあった。子供たちが椅子を後ろに傾けて座ることができないように、と考えられた座面の高い椅子は、子供たちが座りながら椅子の向きを変えられないため不人気だった。

曲線のベンチ

発表会などを想定して作られた階段状のベンチは、重くて移動がしづらいだけでなく、キャスターに足を挟んでけがをする恐れがあるとして、実験の早いうちに教室の隅で置物になっていた。

天井から目線の高さまでつり下げられたランプシェードはデザイン性が優れ、ポップで明るい印象を与えたが、子供たちが何度も顔をぶつけたため、注意を促す黄色いテープが巻かれたのち、つり糸が巻き上げられた。

そして、教師たちの最大の不満は、これらの改善点を専門家として家具メーカーに進言したときに、営業担当者が耳を貸さなかったことだった。

インテリアにこだわりのある北欧人とはいえ、家具は高い買い物である。新築の校舎では、ITベンチャーのオフィスのような、未来的な空間に出くわすことがある。ICTが発達し、学習方法が変わり、配慮すべき事項も増えてきた中で、日本でも物理的環境はますます注目を集めるだろう。機能性や耐久性重視から時代を進め、人間性を感じられる、居心地の良い学習空間を作るために、北欧の試行錯誤から学びたい。

(林寛平=はやし・かんぺい 信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)

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