【変わる高校生の就職活動】1人1社制見直し

高校生の就職活動が、大きく変わろうとしている。文科・厚労両省の高等学校就職問題検討会議ワーキングチームは今年2月、生徒が学校推薦を受け、企業を1社しか応募できない代わりに、ほぼ確実に内定を得られる「1人1社制」の慣行を見直すべきだとする報告書を取りまとめた。高校生の就職活動や高校のキャリア教育は、どう変わっていくべきなのか。また、新型コロナウイルスによる経済状況の悪化は、高校生の就職にどのような影響を与えるのか。学校と仕事の接続を支援している「スクール・トゥ・ワーク」の古屋星斗代表理事に聞いた。


1人1社制の見直しは歴史的転換点
――1人1社制の見直しを求めた報告書をどう捉えていますか。

私たちはここ3年ほどの間で、高校生の就職活動に積極的に関わるようになりました。高校や専門学校を卒業して就職する人たちのことを、大学生よりも早く社会に出ていくという意味を込めて私たちは「早活人材」と呼んでいます。

私が前職の経産省職員だったときに痛感したのは、現場でリーダーシップを発揮して仕事を回している人には、高卒の人が多いということです。どれだけの学校教育を受けているか、どこの大学を出ているかは、熱意をもって責任のある仕事をする上では何の価値もないと思い知らされました。

高校生をはじめとする「早活人材」の支援に取り組む古屋代表理事

ベンチャー企業では、大卒ではない人がCIO(最高情報責任者)や営業チームのリーダーを務めていることも珍しくありません。また、高校を卒業していったんは地元企業に就職したものの、東京の企業に転職してクリエーティブな職種で活躍している人も増えています。高校を卒業した人が地元企業でブルーカラーとして働くというステレオタイプなイメージでは、高校生の可能性を捉えきれないのです。

そうした前提に立つと、1人1社制の旧来型のマッチングシステムは、早晩機能しなくなると思います。そもそも、1人1社制の起源は、戦時中の国家総動員法の下でつくられた労務調整令という勅令にまでさかのぼります。その仕組みが戦後も中学校や高校に引き継がれ、高校進学率の上昇とともに高校に残ったのです。その意味で、70年以上続くこの慣行の見直しを求めた今回の報告書は、歴史的な転換点だと思います。

大卒と高卒の間にある就職活動の経験差
――1人1社制には、どんな問題があるのでしょうか。

1人1社制はある面では非常によくできたシステムで、私はうまく生かしていく必要があると思っています。ただ、大きな問題点として、都道府県内のハローワークの情報を基に進められるため、「越境就職」ができないことがあります。

現状では、高校を卒業して就職する人の8割が、居住する都道府県内の企業に就職していますが、地元の企業しか受けられないという状況は、不況に弱いのです。不況は、国全体が沈むというより、特定の地域、産業が大きく落ち込むというのが一般的です。したがって、特定の地域にしか就職できないということは、その地域の産業が不況に陥れば、その影響を真っ向から受けてしまうことを意味します。

もう1つ、マッチングの問題もあります。高校生が見る企業の求人票には職場の写真もなく、待遇などの情報が簡潔に示されているだけなのが現状です。アルバイトの求人雑誌の方がまだ詳しいのではないかと思えるほど、必要な情報が何も書かれていません。

同様に、高校生が提出する履歴書、つまりエントリーシートも形式が決まっていて、B4サイズの用紙の左側に経歴や住所などを書き、右側に志望動機や特技などを記入するだけです。たったそれだけの情報では、企業側もその人の能力や適性を判断できるわけがありません。こうした状況は、結果的に高卒で就職した人の高い離職率につながっていると言えます。

1人1社制の問題点を指摘する古屋代表理事

1人1社制は、終身雇用が守られ、会社に就職したら人生のゴールだとされていた時代の産物です。今は雇用が流動的で、企業が次々に倒産や合併をしたり、ベンチャーが立ち上がったりしています。大卒、高卒にかかわらず、その会社に定年までいられる保証は全くないのです。

しかし、いざ転職をしようとしたときに、大卒と高卒では大きな違いがあります。大卒の人は、就職活動の際に曲がりなりにも自分自身で、やりたい仕事や志望動機を考えた経験があるはずです。そのため、いざ転職するとなった場合も、「就活のやりかた」でやればいいわけです。

ところが高卒の場合は、就職活動と同じやりかたでは転職はできないため、どうしていいかが分からない。この経験差は大きく、その意味でも高校生の就職活動を変える必要があると考えます。

コロナ危機で就活が長期化する恐れ
――新型コロナウイルスによる経済の低迷が懸念されています。高校生の就職活動には、どのような影響が考えられますか。

大きな影響があります。1つは、景況感悪化による求人減少です。特に、高校生の就職では大きな問題が生じることが予想されます。それは「都道府県による格差」の発生です。高校生の就職は好況期には全国的に就職内定率が100%近くなりますが、景況感が悪くなった際には、その内定率を維持する都道府県がある一方で、大きく低下する都道府県が出てしまいます。

リーマンショックの際には内定率が80%以下となった都道府県が複数ありました。クラスで30人就職するのであれば、6~7人の生徒が就職できない。そんな地域が現れてしまう可能性があります。

さらにもう1つは、スケジュールの遅れです。緊急事態宣言への対応により、地域ごとに差はあるものの、学校の授業が大幅に遅れています。もちろん、進路指導や就職相談も多くの学校で遅れており、教科の授業の遅れを取り戻すことすら難しい状況ですから、進路指導はほとんど未着手の学校が多いのではないでしょうか。

また、夏休み期間が短縮されることから、通常夏休みに行っている職場見学を、授業がある平日に公欠扱いで参加したり、夕方に行ったりという、毎年行っていない対応が必要になる可能性が高いです。さらに、生徒にとっては資格試験が延期となったり部活動の大会がなくなったりした点も就職活動への影響が考えられます。

企業側についても同様です。緊急事態宣言が明けてすぐの6月に求人票を出すことが難しい企業も多いのではないでしょうか。オンライン面接などの対応も必要になるかもしれません。

つまり、今起こっている新型コロナウイルスによる影響は、通常の「景況感が悪くなったための求人の減少」と「スケジュールの圧迫」のダブルパンチです。このため、高校生の就職活動は通常以上に長期化する懸念があります。

外部と連携したキャリア支援
――今後、高校生の就職活動をどのように変えていく必要があるのでしょうか。

大学生と同様に、高校生にも自由に就職活動ができるように門戸を広げるべきだと思います。もちろん、こうした意見には批判もあります。1つは、高校生は大学生と違い、発達段階的に自由な就職活動は無理だというものです。

しかし、私たちは実際に、自由な就職活動をして自分自身のキャリアを切り開いていった高校生を数多く知っています。また、発達段階が低いというのなら、段階に合わせた就業観を醸成するプログラムを開発し提供すべきです。

とはいえ、大学生ならば地元以外の都市部や地域に出て就職活動ができますが、高校生の場合は、教員が引率しなければなりません。それは現実的に無理ですよね。だからこそ、1人1社制の見直しとセットで、今回の報告書に盛り込まれているような、高校生の就職活動を学校の外部から支援する仕組みが必要になるのです。

――高校の就職指導の在り方も変わりますね。

学業成績の良い生徒を地元の優良企業に就職させるという高校が大半だと思いますが、残念ながら、学業成績と社会に出てから必要とされる仕事の能力はリンクしません。そうした状況がある中で、適切なマッチングを行うとなれば、学校には荷が重いと思います。

学級経営や教科指導において、日本の教師は極めて高い専門性を持っています。個々の生徒の人間性を見て、エントリーシートの自己PRをまとめるときにサポートするようなことであれば、教師としての専門性が発揮されるでしょう。一方で、学校外のさまざまな企業と生徒をつなげたり、長期スパンでのキャリア教育を実施したりすることは、外部のサポートが必要です。

また、日本の専門高校を見ると、学校の教師による座学の授業が多すぎます。産業の最前線を学ばせようと思うのなら、インターンや講師派遣など、企業の協力は不可欠です。今の経済界では、ITエンジニアなどのDX(デジタルトランスフォーメーション)人材が求められています。

こうした社会のニーズとリンクさせて、分かりやすく例えれば、卒業後にグーグルに就職するような生徒を育てる学校になれば、日本の専門高校にも未来があります。

高校でも少しずつPBL型の授業が増えてきましたが、これをより本格的に実施するなら、生徒が学校外で課題を見つけなければいけません。その点で、これからの教師には、「学校外の人をいかに引っ張ってこられるか」が問われてくるでしょう。そうして外部から調達してきたリソースを、生徒に合わせて提供するファシリテーション能力が必要です。

高校生の就職やキャリア支援に関しては、さまざまな民間サービスやサポート団体も登場してきています。就職でチャレンジしたいと思っている高校生を支えるツールがたくさんあるので、教師も生徒もそういうものにどんどん頼ってほしいと思います。

(藤井孝良)

【プロフィール】

古屋星斗(ふるや・しょうと) 一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。経済産業省に入省し、産業人材政策や福島の復興・避難者の生活支援、成長戦略立案などに携わった後に退職。現在はリクルートワークス研究所研究員として、労働市場の変化や学生・若手社会人のキャリア形成を研究する。2018年に「スクール・トゥ・ワーク」を設立し、「早活人材」のキャリア支援に取り組む。情報経営イノベーション専門職大学客員講師。


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