【北欧の教育最前線】信頼の糸を張る蜘蛛・フィールドワーカー

若者の孤立が深刻だ。コロナ禍で居場所を失った若者も大勢いる。スウェーデンでは精神的に不安定な子供や若者が増えており、難民の若者が社会になじめずに自ら命を絶つ例もある。学校や地域から取りこぼされ、心のよりどころのない若者のために働くスウェーデンの「フィールドワーカー」を紹介する。


顔見知りとして若者を支える

フィールドワーカーはアウトリーチによって若者の心のよりどころをつくる行政職員だ。孤立や犯罪、いじめや差別といった問題の「予防事業」を担う職員で、主に13歳から20代前半の、社会に居場所がないリスクゾーンの若者を対象とする。

フィールドワーカーの職場は街全体だ。昼夜・休日問わず若者が集まる場に出かけ、信頼関係を築く。出向く場は、道端や街中、学校や家庭、ユースセンター、スポーツクラブや若者を対象とした事業を行う非営利組織など、若者の活動場所全て。そのため、地域のほとんどの若者はフィールドワーカーと顔見知りだ。

フィールドワーカーの主な職務はアウトリーチ活動と、学校やさまざまな機関との連携である。例えば、彼らはユースセンターに行き、まず若者と一緒に遊ぶ。ビリヤードをしながら、「どこの学校に通っているの?」「そうなんだ! どんな感じ?」などと世間話をしつつ、その後一緒に卓球をしに行く。

街中に出向くフィールドワーカー

街中では、喫煙している若者を見てもすぐに注意するわけではなく、まず、その若者の状況を理解しようとする。そして、どのような学校生活を送っているのか見るために、学校を訪問する。

学校内でも、授業中に廊下で集まっていれば声を掛けるが、授業に戻るよう促すのではなく、まずは会話を楽しむ。このようなプロセスを繰り返し行うことで、安心できる大人として関係を築いていく。

学校では、リスクなどを予防する活動も行う。例えば中学1年生のクラスに出向き、薬物やアルコール、タバコなどへの依存に関することや、LGBTQやエスニシティ(民族性)に関することについて、情報提供を行ったり話し合ったりする。基本的には若者が話したかったり、聞きたかったりしている内容を取り上げる。

糸を張る蜘蛛として

フィールドワーカーは、「若者に対する社会の責任」という視点を大切にしている。学校関係者以外にも、ユースセンターや保護者、警察や議員、社会福祉課と連携し、若者を包括的に支援する。

子育てに自信がなく不安を抱える保護者を支援したり、薬物などを販売する人物の存在を警察に知らせたりする。虐待を受けていたり、精神的に危機的な状況にあったりする若者に対しては、社会福祉課の職員と連携して支援体制をつくる。そして、現在の若者がどのような状況にあり、どのような支援が必要かを議員に伝え、予算確保に努める。

フィールドワーカーの位置付け(筆者作成)

フィールドワーカーは、若者が家庭や学校、ユースセンターなどの施設にいるときは、それぞれの場を支援するため、若者への支援は間接的だと言える。一方、支援態勢が整っていない場(=空間)においては、若者に働き掛け直接的に支援を行う。フィールドワーカーはさまざまな組織をつなげる役割を担っているため、「蜘蛛の巣の蜘蛛」と呼ばれる=図。

日本には「夜回り先生」をはじめとする個人やNPOがあり、スタッフ自らが地域に出向く形でのアウトリーチ活動が広がってきている。枠にとらわれず民間で実施することの意義とともに、地域的な偏りや、スタッフへの過重負担などの懸念もある。

スウェーデンでは公的に実施されることで、そうした懸念に一定程度、対応しているといえる。より多くの若者が悩みを抱えつつも健康的に成長するために、アウトリーチ活動を行う存在の、より一層の拡充が重要だと思われる。

※詳しくは、松田弥花(2017)「スウェーデンにおける子ども・若者を対象としたアウトリーチ事業」(『子ども・若者支援と社会教育』東洋館出版)を参照されたい。

(松田弥花=まつだ・やか 高知大学教育学部助教。専門は、比較教育学、社会教育学、生涯学習論)

この連載の一覧

あなたへのお薦め

 
特集