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 アイスランドは、世界でもっともジェンダー平等が実現している国だ。世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数では、11年連続で第1位に君臨している。父親の8割ほどが育休をとり、国の議員の4割弱が女性だ。この国のある私立園(学校)チェーンは、男女平等のためのユニークな教育方法を実践している。

男女別のクラスで平等を促進

ヤットリ・モデル(Hjalli-model)と言われる教育方法は、1989年にマーガレット・パラ・オラフスドッティル氏によって始められた。現在では国内で14のプリスクールと3つの小学校がヤットリ・モデルを導入しており、一大チェーンとして運営されている。海外にも同モデルを導入する園がある。

この教育方法の特徴は、男女別のクラスを編成し、それぞれに「埋め合わせ」の教育を提供することだ。例えば、女の子には、勇気と自信をもって、自分の言葉ではっきりと意見を言うことを学ばせる。同校のウェブサイトには、机や窓枠から思い切って飛び降りる女の子たちの写真が掲載されている。

一方、男の子には、お互いを思いやり、やさしくすることを学ばせる。人形遊びもするし、クラスメイトの髪の毛を整えてあげる子もいる。男女ともに、制服はジェンダー・ニュートラルなTシャツやパーカー、スウェットパンツなどだ。

オラフスドッティル氏によれば、男女が一緒のクラスにいると、お互いを見ながら男女それぞれの性に特徴的な役割を引き受けてしまうことが多く、教員から得る注目度合も異なる。あえて男女別のグループにすることで、「おとなしくてやさしい女の子」や「強くて活発な男の子」という役割から解放し、それぞれの子供に平等な機会を与え、可能性を最大限に引き伸ばそうというわけだ。

現在、アイスランドのプリスクールに通う子供の8%がヤットリ・モデルの園に通っているという。設立当初は、「超ラディカル」と言われたモデルだが、国内では一定の評価を得ていると言える。親子2世代にわたって同モデルの園に通う家庭もある。

夕食や洗濯サービスも

ヤットリ・モデル有限会社は、企業ならではのサービスにも取り組んできた。2017年には「生活を楽にしよう」というプロジェクトのもとで、健康食レストランと組んで、持ち帰りができる夕食サービスを実施した。希望する親は、子供を迎えに行くときに、一緒に夕食も持ち帰ることができる。

また、同年に洗濯サービスも開始するとした。専用の洗濯バッグに家庭の洗濯物を入れてプリスクールに預けると、数日後に洗濯されて戻ってくるという仕組みだ。

このサービスが報道されると、さまざまな議論が起こった。ある議員は「教育機関は教育を提供すべきで、家事サービスを行うべきではない」と批判した。オラフスドッティル氏は、プリスクールは媒介になるだけで、実際に洗濯をするのは洗濯事業者であり、批判は誤解に基づくと主張した。

メディア上の議論では、「昔は家事をすべて自分たちでやっていた。なぜ今はできないのか」といった高齢世代の意見や、「どうして自動車を洗うサービス(いわゆる男性的な仕事)を買うことはOKで、洗濯サービス(いわゆる女性的な仕事)になると議論が巻き起こるのか」といった指摘も挙げられた。

オラフスドッティル氏は、自分たちは育休を延長させたり、労働時間を短縮させたりすることはできないが、何らかの働きかけはできると語る。現代の忙しい保護者が子供とゆっくりした時間を持てるようにしたいというのが、サービスの背景だ。ヤットリ・モデルは、子供たちへの直接的な影響だけでなく、子供たちが住む社会や家族の在り方にも積極的に働きかけているのだ。

一方で、教育に営利企業が参入し、私事化(プライバタイゼーション)が起こることを懸念する人もいる。ある研究者は、ヤットリ・モデルの標準化された実践を、管理と予測可能性などに特徴づけられる「マクドナルド化」理論と重ね合わせる。同モデルのチェーン校では、すべての学校でカリキュラム、空間や教材・教具、スケジュール、制服などが標準化されている。別の研究者は、私立校が増え、学校選択制が進展した場合、将来的には社会における不平等の拡大につながると懸念する。

平等を推し進めようとする教育企業と、企業の進出による教育の市場化が引き起こしうる不平等――。アイスランドにおける、このせめぎあいの行方に注目したい。

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