世界の教室から 北欧の教育最前線(20)スウェーデンの英語教育

世界の教室から 北欧の教育最前線(20)スウェーデンの英語教育
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日本では来年度から小学校英語が大きく変わる。5、6年生は教科として、3、4年生は外国語活動として始まる。英語教育への関心はさらに高まりそうだ。スウェーデン人は英語が流ちょうなことで知られる。母語はスウェーデン語なので英語は外国語である。また、スウェーデン語以外を母語とする移民も多いため、英語が第二、第三外国語である場合も多い。それでも、ほとんどの人が英語を話せるのである。言語の類似性や、メディア、日常生活で英語に接する機会が多いという事情もある。学校での英語教育はどうなっているのか。

高校生が英文学を議論

ウプサラの高校で英語の授業を参観した。この日の授業では、2年生がヘミングウェイの『白い象のような山並み』という短編小説を読み、そのテーマ、人物や風景の描写、シンボルについてグループで議論していた。この短編は、一組の男女が中絶をめぐる会話を展開するが、それについて明示されていない。「二人は恋人みたいだけど、関係がこじれているみたい」「何か犯罪を計画している話し合いなのでは」「二人の性格はずいぶん違うように描かれている」生徒らは最初、スウェーデン語を交えながら話し合っていたが、授業の最後の方にはほとんど英語だけで進めていた。担当のカリーナ教諭はグループをまわり、質問しながら話し合いを促す。印象的だったのは、生徒たちが話し合いの際に、「ここにこう書いてある」「この描写からは…」と、必ずテキストによって議論をしていたことだ。

カリキュラムの三つの柱

スウェーデンの指導要領では、英語は基礎学校(日本の小中学校に相当)に入学してすぐに始まるが、英語教育の目的は基礎学校から高校まで一貫している。英語は多様な領域(政治、経済、教育、文化)で使用されているとした上で、状況と目的に応じて積極的に、自信をもって使おうと思えるようになる――となっている。カリキュラムは(1)コミュニケーションの内容・領域(2)受容―聞くことと読むこと(3)生産と交流―話すこと、書くこと、対話すること――の三つの柱で構成されており、学年が上がるにしたがって幅や複雑さが増していく。例えばコミュニケーションの内容・領域では、基礎学校低学年では身近な話題、例えば興味関心、人、場所について扱うことになっているが、高学年になると日常的な状況・活動・イベント、意見、経験、感情、予定といったものも扱うようになる。高校ではさらに抽象的な領域、時事的なイシュー、倫理的・存在論的な問題、文学作品なども加わる。ヘミングウェイを英語で読み、議論するというのは、基礎学校から積み重ね、幅が広がった結果の英語の授業なのである。日本も新学習指導要領では、小学校から高校までの一貫した目標を設定し、話すこと、聞くこと、読むこと、書くこと――を柱にしているという点では、スウェーデンの英語教育が目指している方向に似ていると言える。日本語は言語体系が異なるため、スウェーデンの状況とは異なるが、お互いに学べることが多いのではないか。

(中田麗子=なかた・れいこ ウプサラ大学教育学部客員研究員。専門は比較教育学)

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