【子どもの不安を解きほぐす認知行動療法(1)】子どもの不安

【子どもの不安を解きほぐす認知行動療法(1)】子どもの不安
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 認知行動療法という言葉を聞いたことがありますか。なじみのない方もいると思いますが、名前だけは聞き覚えがあるという方や、別の連載「不安の予防教育プログラム『勇者の旅』」で既に学んだという方もいるかもしれません。この認知行動療法、実は子どもの不安に対する支援として、半世紀以上の研究が積み重ねられてきています。

 不安は誰にでもある感情です。ですから、今まで一度も不安になったことがないという人はいないと思います。例えば、筆記試験や採用面接の前、新しいところに入るときには、多少なりとも不安を感じることでしょう。不安は、「破局や危険を予想することで起きる不快な気分」を表現するための言葉です。不安と同じような言葉に恐怖がありますが、対象がはっきりしているときに恐怖という言葉を使い、そこまではっきりしていないときに不安という言葉を使うことが多いようです。また、心配という言葉もあります。同じようなことを何度も何度も考えてしまって、そのことによって不快な気分が維持してしまったり、悪化してしまったりすることを指します。緊張の場合はどうでしょう。身体反応に焦点を当てていることが多いかもしれません。このように、将来の脅威を予測した際に生じる不快な気分を表現する言葉は複数あります。本連載では、それらを明確に区別するのではなく、必要に応じて使い分けていきたいと思います。

 さて、不安が強くなり過ぎると、どのような問題が起きるでしょうか。人前でリコーダーのテストをすることに不安を感じる子どもの場合を考えてみましょう。直前に不安を感じていて、少し胸がドキドキする。心配なので事前に練習をしておく。この程度の不安であれば、大きな問題にはならないと思います。それでは、心配が強過ぎて他のことをしていても「どうしたらよいの?」と親に繰り返し尋ねてしまう場合、あるいは、不安が強過ぎるためにいてもたってもいられず、結局テストを受けられなくなってしまう場合はどうでしょう。さらに、その不安がひどくなって、こういったテストのある日は学校を休んでしまうようになってしまったら、困った状況になってしまいます。

 このように、不安は日常的に感じる感情である一方で、それがひどくなってしまうと、日常生活に支障を来してしまう感情でもあるのです。この二面性こそが、不安の厄介なところであり、なかなか支援の手が行き届かない要因にもなります。そこで本連載では、支援の必要な不安に焦点を当てて、不安を解きほぐす具体的な方法について紹介していきたいと思います。

【プロフィール】

石川信一(いしかわ・しんいち)臨床心理士、公認心理師、認知行動療法師。宮崎大学教育文化学部講師、フルブライト研究員、マッコーリー大学客員教授などを経て現職。子どもの不安に対する認知行動療法に関する研究や、学校で実施するメンタルヘルスの予防教育プログラムの実装などを研究している。本連載に関わる著書に、『イラストでわかる子どもの認知行動療法―困ったときの解決スキル36』(合同出版)がある。

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