大学生が駄菓子屋を経営 新たな放課後の居場所をつくる

大学生が駄菓子屋を経営 新たな放課後の居場所をつくる
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 いろいろな子供や大人が集まれる地域の居場所をつくりたい――。そんな思いを持った「駄菓子屋」がこの夏、東京都足立区にオープンする。開店に向けた企画や準備は全て大学生チームが中心になり、運営も大学生やボランティアで行う予定だ。だが、なぜ大学生が駄菓子屋をやることになったのだろうか。企画を立ち上げたNPOや大学生に聞いてみた。昭和を象徴する存在だった駄菓子屋が、令和の子供や地域に関する課題解決モデルとしてよみがえるかもしれない。

いろいろな子供が立ち寄る居場所に

 東武伊勢崎線西新井駅近くにできるその駄菓子屋は「irodori」という。「さまざまな子供や大人が集まることで、いくつもの色が混ざりあって新しい色が生まれるような場所にしたい」という思いを込めて名付けられた。都内9カ所に学童保育を運営しているNPO法人「Chance For Children(CFA)」の学生チームが主体となって、コンセプトからクラウドファンディングによる資金集め、駄菓子の仕入れ、店づくり、ボランティアのスタッフ募集まで、ほぼ全てを手掛けた。

7月17日にオープンする「irodori」のイメージ(Chance For All提供)
7月17日にオープンする「irodori」のイメージ(Chance For All提供)

 店にはボランティアのスタッフが常駐し、駄菓子の販売だけでなくフリースペースや飲食コーナーを設けて、子供たちは駄菓子を食べながらくつろいだり、学校の宿題をしたりできる。大人も利用することができ、多世代交流が生まれる誰もが安心して過ごせる居場所を目指すという。

 学生チーム代表の青山学院大学国際政治経済学部2年生の飯村俊祐さんは「最初は子ども食堂も考えたが、いつでも開いていて、『また明日ね』と声を掛け合える場所にしたかった。駄菓子屋ならば、福祉を前面に出すことなく地域の日常に溶け込めて、いろいろな家庭の子供が気軽に立ち寄れる」と、駄菓子屋を選んだ理由を説明する。

プロジェクトチームの代表を務める大学生の飯村さん(Zoomで取材)
プロジェクトチームの代表を務める大学生の飯村さん(Zoomで取材)

「早くうちの近くにもつくってよ」

 飯村さんは、もともと発展途上国の貧困問題に興味があり、今の学部を選んだが、学んでいくうちに日本国内の子供の貧困問題にも関心を寄せるようになった。コロナ禍で大学でのサークル活動やボランティアが制限される中、何とか現状を知る機会はないかとインターネットで情報収集をするうちに、CFAの存在を知り、イベントに足を運んでみた。そこで代表の中山勇魚(いさな)さんと出会い、「生まれ育った家庭や環境でその後の人生が左右されない社会の実現」というCFAの理念に共感した。

Chance For Children代表の中山さん(Zoomで取材)
Chance For Children代表の中山さん(Zoomで取材)

 そして、CFAにボランティアとして参加していた大学生とも打ち解け、秋ごろから何度も議論を重ねながらプロジェクトを具体化させていった。集まったメンバーの専門分野は、建築や農業、理工分野など実に多彩。不思議なことに教育や福祉分野を専門にしているメンバーはいないが、地域の子供のために力になりたいという思いでは負けない。今も7月17日のオープンに向け、それぞれの特技を生かして駄菓子屋の準備を急ピッチで進めている。

 開業資金に必要な300万円を目標に始めたクラウドファンディングは、5月末の時点で200万円を超えた。運営スタッフとしてボランティアを募ると、想定以上に希望者が集まり、開店後の見通しがついた。

 さらに、コンセプトに共感した駄菓子メーカーの「やおきん」が協賛し、子供たちから夢の駄菓子のアイデアを募集するコンテストも始まった。

 「怖いもの知らずな学生の思いを応援してくれる人が、こんなにたくさんいることがありがたい。中山さんをはじめ、プロジェクトを任せてくれて、支えてくれた人がいなかったらここまでできなかった」と飯村さん。CFAの学童保育に通う子供たちにこの計画を話すと「早くうちの近くにもつくってよ」とせがまれたそうだ。

駄菓子屋を新たな子供支援モデルに

 大学生たちの成長を見守る中山さんも、このプロジェクトに期待を寄せる一人だ。7年前に学童保育事業を立ち上げた中山さんは、ずっと子供の放課後の居場所づくりに関する施策にある違和感を覚えていたという。

 「子供の貧困問題が知られるようになり、無料の学習塾が充実してきた。障害のある子供には放課後デイサービスもある。しかし、学童保育も含めて、みんなばらばらで分断されてしまっている。もっとみんなが同じ場所で一緒に過ごせないか」

 その問題意識に共鳴した仲間が、飯村さんをはじめとする学生たちだった。中山さんは「今の支援や福祉は保護者ベースになっている。そもそも子供にあまり関心がなかったり、情報が届いていなかったりする保護者だと、子供が支援にアクセスできない。子供が自分の意思で通える場所が地域に必要だ」と話し、飯村さんたちの駄菓子屋が持つ可能性に思いを託した。

 「irodori」は当面、平日のみの営業でスタートする予定だ。まずは経営を安定させて、持続可能な状態にすることが当面の課題だという。飯村さんは「大学生も子供も、そして地域の大人も一緒に関わり合いながら、いろいろな価値観を学び、みんなが自分らしくいられる場所にしたい。経営面も含めてモデルになれば、他の地域でも展開できる。駄菓子屋が放課後の居場所の新たなムーブメントを起こせるかもしれない」と力を込める。

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