【全国学力調査】授業改善のカギはICT活用 学校現場の声

 中学校では2021年度から新学習指導要領が施行されて以降、初めての全国学力・学習状況調査となった。中学3年生の国語、数学、理科において、学習指導要領で新設された内容を反映させた問題での正答率が低い傾向が見られたが、現場の教員はこの結果をどう見たのか。「各教科において、多数の要因を考慮して、複数の段階を経て判断し、自分の考えを表現するような活動に取り組む必要がある」「探究的な学びをするためには、ICTの活用がカギになる」といった授業改善への道筋が見えてきた。

日常的にいくつかの資料を使って意見をまとめる学習を
高円寺学園の田中学園長は「各問題から、これからの授業改善へのヒントが見えた」と語る(高円寺学園提供)

 東京都杉並区立小中一貫教育校高円寺学園の田中稔学園長は、今回の全国学力調査について、「思考・判断・表現の観点に該当する設問に関しては、多数の要因を考慮して、複数の段階を経て判断し、自分の考えを表現するようなものが多かった。そうした考え方をどの教科においても取り組んでいかなければならない」と指摘する。

 例えば、中学校国語では、新学習指導要領で新設された「情報の扱い方に関する事項」で、先端技術との関わり方について、文書作成ソフトのコメント機能などを活用しながら意見文をまとめる問題(大問2の問三)が出題され、正答率は46.5%だった。

 田中学園長は「この問題では3つの資料を活用し、正しい情報を抜き出して、かつ引用を明らかにして解答することが求められたが、日常的にいくつかの資料を使って意見をまとめるような学習をしていないと難しい」と指摘する。「このような力は今後、子どもたちにとって非常に重要だ。意見文の単元以外でも、繰り返し取り組んでいくことが必要だろう」と話した。

中学校国語の大問2では、複数の資料を使って意見をまとめることが求められた

 中学校数学では、データの活用を問う大問7において、箱ひげ図の箱が示す区間に含まれているデータの個数と散らばりの程度について、正しく述べたものを選ぶ問題が出題され、正答率は44.4%だった。

 こうした問題の正答率が低かったことに関して、大阪市立新巽中学校の数学科の山本昌平指導教諭は「普段の授業において教員は知識・技能を教える方が多いと思うが、データを比較する必要性や、なぜ箱ひげ図を使うのかといった目的に焦点を当てた授業設計が必要なのではないか」と見解を示した。

 また、二酸化炭素量の削減の取り組みを取り上げた大問8について、日常的な事象を数学的に解釈し、問題解決の方法を数学的に説明することに引き続き課題が残ったが、「数学という教科の特性上、どうしても問いの中に必要な情報しか入れないことが多い。日常のストーリーの中で、どう数学として問題解決ができるのかということを、授業でアプローチできていない」と課題を挙げる。

 今後の授業改善について、山本指導教諭は「数学を課題解決の手段として使えるような状況をつくったり、そうした問いを投げたりすることが必要だ」と話した。

限られた時間で探究的な学びをするためにICTを活用する

 3年ぶりに行われた中学理科は、平均正答率が49.7%と5割を切った。この結果について、千葉県船橋市立飯山満中学校の理科の辻史朗教諭は「思っていたよりも正答率が低かった」と話す。

中学校理科の大問5(3)では、実験の計画を検討して改善できるかどうかが問われた

 エネルギーの領域に関して、押して使うばねを科学的に探究する大問5で、磁気ばねの実験で得られた考察の妥当性を高めるために、測定値の増やし方について、測定する感覚や範囲の視点から実験の計画を検討して改善できるかどうかをみる(3)の記述式の問題では、正答例に至ったのは43.8%だった。

 辻教諭は「他者の考えの妥当性を検討したり、実験の計画が適切か検討して改善したりするといった状況を、普段の授業の中で生徒たちが経験できていない」と指摘する。実験の計画についても、教員が主導して説明するケースや、あらかじめプリントに数字が書かれていて、実験結果を埋めていくような流れになりがちだとし、「50分という限られた授業時間の中で、実験をして、結果を出し、考察までするとなると、これまでは教科書に載っている測定値だけをやるのが限界だった」と話す。

 科学的に探究する学習を目指していく上で、辻教諭は「ICTの活用がカギになる」と話す。「例えば、1班は〇までのデータを、2班は△までのデータを取るなどし、それをスプレッドシートなどで共同編集しながら実験データを集めていく。そうすれば、同じ実験でも測定値を増やすことができる。理科のICT活用の強みはこれだと思っている」と強調する。

 また、質問紙調査において理科に関する興味・関心などに関する質問に肯定的に回答した割合は18年度と比べて、中学生で増加した。その要因について辻教諭は「例えば、教科書においても日常生活における現象と結び付けるような写真やコラムが増えていると感じる。実験でも、日常と結び付けて予想を立てた上で、実験に入るよう工夫している。そうして生徒たちの実生活と理科が結び付いてきたことが、影響しているのではないか」と考察する。

 しかし、「将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思うか」という質問に肯定的に回答した中学校の生徒の割合は約20%と、18年度と比べて横ばいだった。「身の回りにある便利なものが理科的な説明がつくという感覚は持っているけれども、それを使って何かを生み出してみようとか、もっと深いところまで考えていくことが、まだできていない。学んだことを生かして、何かアウトプットするような活動を取り入れていくことで、職業への関心や、探究的な学びにもつながっていくのではないか」と期待を込める。

不登校児童生徒へのICT活用の課題

 今回の全国学力調査と同時に行われた質問紙調査の結果からは、学校のICT活用が一気に進んだことが見て取れる。一方で、不登校児童生徒に対する学習活動などの支援への活用状況について、「ほぼ毎日」「週3回以上」「週1回以上」と回答した小中学校の割合は約40%と、まだ半数に満たないことが分かった。

 新巽中学校では不登校の生徒への支援に1人1台端末を活用している。例えば、数学がとても好きな生徒は、同校で導入されているAIドリルのQubena(キュビナ)で学習し、単元テスト(同校では定期テストではなく、単元テストが取り入れられている)にも取り組んだ。山本指導教諭は「その生徒の学習進度を見ていても非常によくやっていることが分かったので、数学に関しては良い評価を付けることができた」と話す。

 ただ、数学以外の教科に関しては、生徒のモチベーションの維持など、ICTだけでは支援が難しい面もあった。「1人1台端末が配備されたことで、不登校の生徒を支援する技術的な環境は整ったと感じている。ただ、それだけではなく、その子が学ぶ目的にきちんとアプローチしていく必要がある」と課題を述べる。

 田中学園長は質問紙調査の結果を踏まえ、「新学習指導要領における『主体的・対話的』については、各校が頑張って取り組んでいることが明らかになった。今後はさらに『深い学び』に、どのように取り組んでいくかが問われている。教科書の中だけで考えさせるのではなく、教員が新たな思考材料を付加したり、1人1台端末を活用して他の情報を得たりする。本校でもそうした学習に、日常的に取り組んでいきたい」と前を向く。

 また、学校現場の多忙化は深刻さを増しているが、「時間がないから学びを変えられないとするのではなく、1人1台端末などをうまく活用して効率化を図りながら、じっくり考えさせるところは考えさせる。そうしたメリハリのあるカリキュラムマネジメントが必要になる」と強調する。今回の全国学力調査の結果についても、「各校で配布だけにとどめることなく、管理職もしくは各教員が自分なりに結果に対して見解を持ち、それを各教科で発信していくような、学校内での工夫されたOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が必要だろう」と考えを示した。

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