【教育新聞まとめ読み(2)】 教員不足の構造問題

【教育新聞まとめ読み(2)】 教員不足の構造問題
iStock.com/sesame
【協賛企画】
広 告

 教員不足の背景に、教員の長時間勤務があり、それが教員を志望する学生たちにも大きな影響を与えていることは、前回の「まとめ読み」で総覧した。今回は、臨時的任用職員などの「非正規教員」と、国と地方の役割分担と表裏一体にある「自治体間のばらつき」という、教員不足の問題が抱える構造的な問題について、教育新聞が報じてきたニュース記事から改めて考えてみたい。

初の実態調査

 2本の記事から教員不足を考える視点を確認してみよう。

 1本目は、今年1月、文科省が初めて公表した「教師不足」を巡る実態調査の結果だ。調査結果によると、21年度始業日時点の小・中学校の「教師不足」人数は合計2086人、5月1日時点では1701人。「教師不足」が起きている学校数は5月1日時点で小学校794校、中学校556校。教員定数に対する不足率は始業日時点で0.35%、5月1日時点では0.28%だった。教師不足が生じた主な要因は、産休・育休取得者や病休者の増加、特別支援学級へのニーズの高まりが、各教育委員会の見込みを上回ったこととされている。

 教員不足を考える際の基本的なデータになるので、文科省が公表している資料「『教師不足』に関する実態調査」をご一読されることもお勧めしたい。都道府県・政令市別のデータが公表されている。

 2本目として、国が標準と定めた教員定数に対する充足率と、そこにおける正規教員と非正規教員の割合を調べた文科省の調査結果を紹介する。

 これだけ教員不足が注目されているが、実は、国が標準と定めた教員定数に対して、2021年度に都道府県や政令市が実際に配置した教員の充足率は全国平均で101.8%となっている。国が定めた教員定数だけをみると、少なくとも表面上では、必要な教員数は確保できている。授業に必要な教員の人数はぎりぎりで確保できており、「教師不足」はまだ表面化しないで済んでいる、とも言える。

 この2つの調査の違いは、2本目の記事は文科省が義務教育費国庫負担金として国の予算に計上している教員定数に対する過不足を調べた内容であるのに対し、1本目の記事はそれに都道府県や政令市などの自治体が独自に加えた人数を含めた教員定数をベースにまとめた調査結果となっているところにある。1本目の「教師不足」調査の方が、学校現場の実態に沿っているとみられるが、例えば、特別支援教育のために教員を独自加配している自治体とそうでない自治体など、自治体独自の配置人数に留意した上で読み解く必要がある。

非正規教員

 2つの調査結果からは、教員不足を考えていく上で、臨時的任用教員や非常勤講師といった「非正規教員」の存在が根深い構造問題となっていることが浮かび上がってくる。臨時的任用職員は、もともと正規職員が産休や育休などで欠員になるときに、6カ月以内の期間で任用されることが地方公務員法第22条の3第1項で規定されている。任期は6カ月を超えない期間で1回に限り更新できる。本来、正規教員の補完的な役割が想定されている臨時的任用職員だが、教員不足が深刻化する中で、年度当初から正規教員と同じように学級担任などを任されるケースが全国の学校現場で常態化してきていることが、調査結果によって裏付けられた。

 「教師不足」の実態調査では、学校に配置されている教員の人数と小・中学校の学級担任について雇用形態別で調べた。それによると、21年5月1日時点で、臨時的任用教員が小学校の学級担任となる比率は11.49%に上る。特別支援学級の学級担任になると、臨時的任用教員の比率が23.69%に跳ね上がり、ほぼ4分の1を占める。そうした臨時的任用教員さえ確保できず、主幹教諭や管理職が学級担任を代替しているケースも多い。

 国が標準と定めた教員定数の充足率は全国平均で101.8%となり、表面上、学校現場での教員不足は起きていないと説明することもできるが、その一方、年度当初の段階で学級担任に必要な正規教員を配置できてないという現実は、すでに学校があるべき姿を確保できていない、とみることもできる。それが特別支援教育へのしわ寄せにもつながっていることは注目すべき調査結果と言っていい。

 こうした問題意識は文科省も共有している。末松前文科相は5月10日の参院文科委員会で水岡俊一議員(立憲民主)の質問に「正規教員にきちんと担任を引き受けていただきたい」と答弁し、年度当初から学級担任に非正規教員を配置する状況を改善すべきだとの認識を示した。

 非正規教員の問題については、末松前文科相は記者会見でも質疑に応じて詳しく説明しているので、2本目の調査結果をまとめた記事の後段をご参照いただきたい。文科省が非正規教員の割合に対する上限設定に慎重姿勢をとる理由についても答えている。

 また、正規教員と非正規教員の割合をみると、自治体ごとのばらつきが大きい。2本目の記事の調査結果によると、教員定数に占める正規教員の割合が最も大きいのは東京都で104.5%となり、正規教員だけで教員定数を上回っている。最も小さいのは沖縄県で、教員の5.8人に1人が非正規教員だった。

 非正規教員の問題は、2001年の義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)の改正で導入された「定数崩し」という政策にさかのぼる。この法改正によって、正規教員の定数を複数の非正規教員に分割して換算し、自治体が人件費を抑制することが可能となった。

 一方、少子化の進展も自治体が非正規教員の採用を増やしてきた経緯に大きく関係している。自治体によっては、児童生徒の人数が減っていくのならば、当面は正規教員の採用を抑制し、足りない分を一時的に非正規教員で補っておけば、将来的にはバランスがとれると判断することもある、と聞く。

 正規教員と非正規教員の問題は、義務教育の質の保障にも関わっており、教員不足問題のゴールを考える上でも、改めて向き合うべき課題といえる。

自治体間のばらつき

 義務教育が抱えるさまざまな行政上の課題を考えるとき、自治体間のばらつきという問題を避けては通れない。2本目の記事で取り上げた国の教員定数に対する充足率の調査結果によると、充足率が最も高かったのは独自に小学校全学年の30人学級に取り組んでいる鳥取県だった。充足率は109.5%で、学校現場の教員の配置数が国の標準よりもほぼ1割多い計算になる。2番目は東京都で108.3%。仙台市105.2%、京都市104.8%と続く。充足率が国の教員定数を下回ったのは、13自治体だった。都道府県・政令市別の詳細は記事中の一覧表を参照していただきたい。

 全国で最も教員の配置数が充実しているのが鳥取県だという結果からは、教員を増やして学校教育を充実できるかどうかは、自治体のやる気に大きく依存していることが分かる。それでも1本目に紹介した「教師不足」の実態調査では、鳥取県は独自に定めた30人学級に必要な教員定数に対して11校で19人の教員が不足しており、不足率が0.81%と全国で4番目に高いことになってしまう。

 鳥取県の例にみるように、教員配置の問題は財政力のある都市部ばかりが有利なわけではない。ただ、日本国憲法第26条第2項に定められた義務教育の目的を考えると、こうした自治体間のばらつきはどの程度許容されるのか、国がどのように関与すべきか、議論は残る。

 地方分権の推進を掲げ、小泉政権下の「三位一体改革」で国から地方に財源と権限を移管して以降、教職員の給与を支える義務教育費国庫負担金の国庫負担割合は2分の1から3分の1に減らされ、教員配置は自治体の判断により一層委ねられることになった。この国と地方の構造的な問題は、教員配置を巡る「自治体間のばらつき」の背景にも横たわる。

 こうした現状に対し、2年1カ月にわたって文部科学大臣を務めた萩生田光一元文科相は21年10月の退任会見で「もう少し教員に余裕が出れば、公教育はもっと強みを発揮する」と強調した上で、「義務教育に必要な経費は、国が責任を持ってダイレクトに補助していかないと、地方財政措置では進まない」と、いまよりも国が直接、義務教育の充実を主導できる仕組みにすることが必要だと訴えた。この国と地方の役割分担を問い直す問題提起は、教育行政のこれからを考える上で非常に示唆に富んでいるのでないだろうか。

根本治療

 こうした教員不足の構造問題をどう考えるか、教育新聞では、さまざまな見解を報じてきた。千葉大附属中学校の校長も務める藤川大祐教授は、非正規教員の問題について、義務標準法の改正で「定数崩し」が認められた2001年まで学校基本調査をさかのぼって正規教員と臨時的任用教員の割合を確認。そのデータを基に臨時的任用教員の人数が「高止まりしている」と結論付け、「この高止まりの状況を変えなければ、臨時的任用教員がいきなり学級担任を担わされたり、特別支援学級や特別支援学校の教員に臨時的任用教員が多かったりする状況は変わらず、『教師不足』から脱却することもできない」と論じた。背景には人件費の抑制を図る自治体の動きがあり、「少しずつ非正規依存が進んだのではないだろうか」と指摘している。

 末冨芳日本大学教授や学校業務改善アドバイザーの妹尾昌俊氏らが参加したプロジェクト「#教員不足をなくそう緊急アクション」は今年5月9日、教員不足への対処法を整理した政策提言を行った。速やかに教員を増やす「応急処置」、教員がやりがいを感じ教員志望者を増やすための働き方改革を進める「体質改善」、正規教員を増やし学校運営体制を構築し直すための「根本治療」――の3つの観点に分けて具体的な取り組みを明示している。

 このうち「根本治療」では、「教員定数」や「国庫負担(予算)」について、国と地方の負担構造を抜本的に見直すところまで踏み込み、非正規教員の割合に上限を設定することも取り組むべきだとした。先に紹介した非正規教員に関する末松前文科相の見解は、この提言に対する受け止めを記者会見で質問されて答えたものとなっている。

 提言を発表した記者会見で、教育行政学が専門の末冨教授は、非正規教員への依存と国と地方の負担構造の関係について質問を受け、「(義務教育費国庫負担金での国と地方の負担割合を見直した)三位一体改革が行われた当時、もっとも強く反対したのは全国知事会だった。地方の声は『国庫負担の割合を2分の1で維持して正規教員を雇いたい』というものだった。それが総額裁量制となり、財政的に苦しい自治体は非正規教員を雇わざるを得ないという苦しい状況が続いてきた。これがいまの教員不足の根本的な理由であり、だからこそ根本治療が必要になっている」と説明。

 「いま最も大切なことは、正規教員を年度当初に教員不足を起こさない数だけ、きちんと確保できる仕組みを保障すること。そのために、義務教育費国庫負担金と総額裁量制の運用をアップデートしていくことが必要だと考えている」と指摘した。

 国と地方の負担構造は、日本の行政システムの土台に関わる大きな問題なので、省庁間の縦割りが強い霞が関の官僚組織の内部からはなかなか議論が広がりにくい。小泉政権下の三位一体改革で義務教育費国庫負担金の国庫負担割合を2分の1から3分の1に減らした時には、地方分権の強化を掲げた政治主導の強いエンジンが背景にあった。容易に前に進む課題とは思えないが、先に紹介した萩生田元文科相の退任会見のように、義務教育については現状よりも国が主導できる仕組みにするべきだとの意見が、実務に通じた政治家からも出ていることには注目したい。

広 告
広 告