教員向け夏休み明けの“だるさ解消” 木村泰子氏ら語る3つの方法

教員向け夏休み明けの“だるさ解消” 木村泰子氏ら語る3つの方法
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 夏休み期間を終えようとしている各地の学校。首都圏を中心に新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、心理の専門家からは、特に若手教員のメンタルヘルスの悪化を危惧して「夏休み明けが要注意だ」と指摘する声が上がる。

 教員は新学期をどんな心持ちで迎えるべきだろうか。新任教員に向けて著書を刊行した東京都公立中学校の前川智美主任教諭、自身の経験を踏まえ若手の心の健康に寄り添う玉川大学の阿部隆行准教授、弱音を吐く大切さを強く訴える大阪市立大空小学校元校長の木村泰子氏に、それぞれが考える3つの方法を聞いた。

大人の自由研究を

教員ならではの探究について話す前川智美主任教諭
教員ならではの探究について話す前川智美主任教諭

 「理想を抱いて教職に就いた若い世代が辞めないよう支えたい」と、『中学教師1年目の教科書』(明治図書)を3月に刊行した東京都板橋区立中学校の前川智美主任教諭は「今年の大型連休明け、初任者がSNSで『辞めたい』と発信しているのを多く目にし、胸が苦しくなった」と話す。

 「学校では不満をもらさず懸命に働いている分、SNSでは弱音が出るのでは」といい、「夏休み明けを『だるい』と感じる一因には、教材研究や授業準備といった『やらなければいけないこと』を積み残したままだという不安があると思うが、頑張っている先生に『もっと頑張れば楽になる』とは言えない」と強調。「新学期を目前に控えた日々の過ごし方として、ワクワクした気持ちになれるような『大人の自由研究』をお勧めしたい」と語った。前川主任教諭が勧めるのは、以下の3つの方法だ。

  1. 休み方を探究する
     新学期スタート前の今、「自分の機嫌の取り方」を模索し、確立しておくといい。いつもより多めに睡眠をとってみたり、お気に入りの入浴剤やスイーツを探してみたり、自分がリラックスできるすべを知っておけば、うつ病などの防止にもつながるのではないか。
  2. 学校から離れた世界を探究する
     行き詰まる前に職場から離れるとよい。物理的に距離を取れる旅行が望ましいとはいえコロナ禍の中では難しいが、映画や本、アニメ、ゲームに没頭するなど、精神的に距離を取ることは可能だ。短期間、もしくは新学期が始まった後にでもできる。
  3. 人間を探究する
     オンラインでも人と話をしてほしい。一人で過ごす方がリラックスできる人もいるが、行き詰まったり悩みを抱えたりしたときに支えになるのは、自分以外の誰かの励ましや客観的なアドバイスであることが多い。

 前川主任教諭は「これらの方法を試しつつ、まずは気持ちを明るくすることに専念し、自然と教材研究などに気持ちが向かうのを待つといい」と語る。自身がモチベーションを上げる方法として、教育系のイベントやセミナーへの参加、学校外の人との対話を挙げ、「イベントやセミナーで新たな教材やツールを知ると『授業で使ってみたい』とワクワクするし、教員以外の人の生き方を知れば『いろいろな道がある』と気持ちを楽にできる」と話す。

「アクティブレスト」で疲労回復を

「アクティブレスト」を勧める阿部隆行准教授
「アクティブレスト」を勧める阿部隆行准教授

 元スポーツトレーナーで、保健体育科教諭として都立学校や都教委に15年勤め、現在は教育学部で後進を育てる玉川大学の阿部隆行准教授(共著に『ビジネスのハイパフォーマンスは「体育」が教えてくれる!』など)は、疲れた時こそ「アクティブレスト(積極的休養)」が重要だと話す。アスリートでも一般的な社会人でも、単にベッドで横になるなど何もしないで休むよりも、ウォーキングやジョギングをして体を動かす「アクティブレスト」をした方が疲労回復でき、ハイパフォーマンスの発揮につながるという。阿部准教授が勧めるのは、次の3つの方法だ。

  1. 少しでもいいから体を動かそう
     「体を動かす」と聞くと「心拍数を上げて一定時間以上走らないと」「筋トレは週3回はやらないと効果がない」などと思いがちだが、疲れている時は逆効果になる可能性がある。疲労回復を目的とする場合は、時間や強度はあまり気にせず、心地よく汗をかくくらいのウォーキングやジョギング、軽めのストレッチングが効果的だ。座り仕事が続いたら、休憩をかねて少し歩き回ってみたり、その場でストレッチングをしてみたりと気分転換を図るのも重要だ。上級編は「プールに行く」で、水に浸かっているだけでも疲労回復の効果があり、水中でのウォーキングやストレッチングを取り入れると、さらに効果が高まる。
  2. 暑い時こそ湯船に浸かろう
     夏の暑い時期は湯船に浸かる機会が減り、シャワーだけで済ましがちだが、疲労回復にはぬるめのお湯での半身浴がよい。リラックスできる入浴剤や音楽があると効果が高まる。上級編は温浴と冷浴の「交代浴」で、スーパー銭湯などで温浴槽と冷浴槽を利用するか、自宅で浴槽にお湯をため、温浴と冷たいシャワーを浴びるのを交互に行うとよい。
  3. 自然や動植物に少しでも触れよう
     多忙を極める教員には難しいかもしれないが、自然を感じられる公園などに立ち寄り、木々に囲まれた中を歩いたり、動植物を観察したりするとよい。上級編は「意図的に自然と触れ合う」こと。舗装されていない林間コースなどをランニングしたり、家庭菜園としてベランダで植物を育てたり、ペットなど動物に直接触れたりすると、心身ともに高いリラックス効果が得られる。

 阿部准教授は自身が学校教員だった時を振り返り、「夏休みは休みの期間ではなく、『授業以外の業務が増える期間』になってしまう。酷暑での部活動指導や冷房の効き過ぎた室内での座り仕事など、授業期間中とは質の違う疲労が蓄積している教員が多いのではないか」と指摘。

 「真面目な先生ほど『オン』の使い方は極めていても『オフ』である休養の取り方はうまくない。つかの間の休日でも、自分のことは後回しにして、子どもたちのために頑張ってしまっているのではないか」といい、「高い車や楽器を買ったら、大事に使って定期的にメンテナンスをするのに、自分の体は異変が起きてからでなければ対処しない人が多い。しかし、車や楽器の部品は替えがあるが、体はそうではない」と強調。「壊れてからでは遅い。毎日少しずつでも自分の心身のメンテナンスをして、その日の疲れはその日のうちに回復するようにしてほしい」と訴える。

 加えて、「ただでさえ頑張っている先生に『これ以上増やして』とは言えない。『やらないことリスト』を作成するなどして、空いた時間を自分のパフォーマンスを回復するための『アクティブレスト』に当ててみては」と語った。

コツは「しない」こと

 若手教員の休職や退職を憂(うれ)い、「若い先生を病気に追い込んで辞めざるを得ない状況にするのは、宝を捨てることだ」と嘆くのは、大阪市立大空小学校の元校長である木村泰子氏だ。木村氏は「信頼できる若い教員がいなくなることは、子どもが大人への信頼を失う原因になる」と語り、若手教員が楽しく働ける環境づくりの大切さを訴える。木村氏が勧めるのは、次の3つの方法だ。

  1. 新学期の準備をしない
     準備をしてもしなくても変わらない。なぜなら、子どもがどんな状況で学校に来るかは新学期にならなければ分からないからだ。綿密に準備をしてしまうと、その型にはめ込みたくなってしまう。準備をする時間は趣味や掃除に使ったり、苦手な分野にチャレンジしたりすることに使うといい。
  2. 他の教員を見ない
     ベテラン教員を見ると「自分も同じようにできなければ」と思ったり、圧を感じて「子どもに厳しく接するべきだ」と考えたりしがちだが、若手教員の魅力は子どもと同じ時代を生きていることだ。子どもの最大の味方でいられる特権を大事にして、ベテラン教員や同僚を意識せず、若手ならではの良さを発揮してほしい。
  3. 「できて当たり前」と思わない
     教えることが教員の仕事だったのは過去のことで、今は「学びのリーダー」であることが求められる時代だ。それなのに、教員が自分の仕事を「できて当たり前だ」と気負っていると、子どもたちまで「できなければならない」とプレッシャーを感じてしまう。「できなくて当たり前。失敗したらやり直せばいい」という気持ちで、日々さまざまな学びを目の前の子どもたちから得てほしい。
「若手教員は宝」と話す木村泰子氏
「若手教員は宝」と話す木村泰子氏

 木村氏は「教員が子どもたちを育てる時代は終わった」と強調。「これからの教員は『学びのプロ』として給与をもらう」といい、若手教員に向け、「学びの中に『楽しみスイッチ』を見いだせるようになってほしい。それが子どもの学びにもつながる」と呼び掛ける。

 また、若手教員に向けたアドバイスとして、「子どもたちにかけてほしい3つの言葉」を示す。それは、「大丈夫?」「何困っているの?」「私にできることは何かない?」の3つ。この言葉掛けは、若手教員がしたときに最も子どもに響くとして、「先生が疲へいしていたら、誰にとっても学校はつまらない場所になってしまう。せっかく子どもに近いという特権があり、『学びのプロ』になれる条件が整っているのだから、子どもと一緒に学びながら共に幸せになる先生でいてほしい」と期待を込める。

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