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 2023年3月31日、永岡桂子文科相(当時)の下、「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」(COCOLOプラン)が取りまとめられました。この中に、以下のような文言がありました。

 学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする。学校の風土と欠席日数には関連を示すデータあり。学校の風土を「見える化」して、関係者が共通認識を持って取り組めるようにし学校を安心して学べる場所に。

 この文章を読んで、初めて「学校風土」という言葉に触れた人が多いかもしれません。そして、「学校風土」というものが何を意味するのか、分かりにくいと思われた人もいるかもしれません。

 本連載ではこれから、学校風土について説明をしていくのですが、その学校風土という概念を使うことの恐ろしさについて、最初にお話ししておこうと思います。

 さて、いじめや不登校は、今やどの学校、どの教育委員会も頭を悩ます大きな話題になっていることでしょう。こうした解決すべき課題にぶつかったとき、通常、私たちはその原因を明らかにしようとします。

 そこで質問です。皆さんは、いじめや不登校の原因はどこにあると思いますか?

「子どもの発達が変わったのが原因だ」

「今の子どもたちは(以前に比べて)、発達に特性がある」

「家庭の教育力が低下している」

「母子の愛着の問題を持っている子どもが多い」

 つまり原因は「子どもの発達や家庭背景にある」という論調です。

 しかし、それは本当でしょうか。一般的に私たちは、環境の影響を受けます。例えば、居心地の良い職場ではパフォーマンスが上がるでしょうが、上司がハラスメント体質でギスギスとした雰囲気の職場であれば、そうではなくなります。逆にメンタルヘルスの悪化や離職などの問題が増えそうです。

 子どもは大人以上に環境の影響を受けます。つまり、いじめや不登校の原因が学校環境にあるかもしれません。例えば、同じ子どもでもクラス替えが行われた後、急に不登校になったり、逆にニコニコ登校できるようになったりすることがあります。もちろん、全てが学校環境で説明できるわけではありませんが、相当な影響力を持っているはずです。

 こうした学校環境のことを、教師の行動やルール設定などを含めて「学校風土」と言います。そして、学校風土に注目することは、教師の行動、学校経営や学級経営、授業の質などについて問うことを意味します。

 だから、学校風土は恐ろしいのです。学校風土は子どもではなく、大人の責任を問います。しかも、それは科学的に正当であり、学校風土の向上が多くの問題を予防するだけでなく、学校教育の成果を高めることも証明されているのです。

【プロフィール】

和久田学(わくた・まなぶ) 特別支援学校教諭として20年以上現場で勤め、その後、科学的根拠のある支援方法や発達障がい、問題行動に関する研究をするために大阪大学大学院連合小児発達学研究科後期博士課程で学び、小児発達学の博士学位を取得。現在は公益社団法人子どもの発達科学研究所主席研究員として、子どもの問題行動(いじめや不登校・暴力行為)の予防・介入支援に関するプログラム・支援者トレーニング・教材の開発に取り組む。主な著書に『学校を変える いじめの科学』(日本評論社)、『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)など。

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