子どもの行動は授業中も生起し続けています。皆さんは授業中に子どもたちに対してどのくらい声を掛けていますでしょうか。アメリカの研究では、1回の授業で20~30回程度のポジティブな声掛けが、子どもたちの授業中の参加や課題従事に必要であると指摘されています。日本においても、授業中の教師の声掛けが子どもの学習に関する作業量や意欲、さらに内発的な動機付けを高めることが実証されています。そこで今回は、中学校における教師の授業中の声掛けに焦点を当てたポジティブ行動支援を生かした授業研究を紹介したいと思います。
中学校や高校の授業研究では、教科担任制であるために意見が言いにくかったり、教科の専門的な話になるとその教科以外の教師は議論に入りにくかったりするといった問題があるのではないでしょうか。ポジティブ行動支援を生かした授業研究では、授業中の生徒や教師の「行動」に焦点を当てていきますので、教科の枠にとらわれない議論や研究を行うことができます。
今回紹介する授業研究は、中学校理科の授業における教師の声掛けをどのように行っていくか、またどのような授業中の教師の工夫によって声掛けを増やしていくことができるのか、というものでした(※)。授業研究は同じ授業が3回異なる学級で行われ、その間に討議会を行いました。その中では、参観した先生方同士で「授業中に生徒をより多く見取るために、モニターに指示を映してはどうか」や「グループワーク中はもっと歩き回って生徒の活動を見に行った方がいい」「具体的な声掛けが増えたことで生徒が意欲的になっている」「○○という言葉がすごく良かった」などと意見を交流し、授業における声掛けが増える工夫を増やしていきました。
このような授業研究の結果、授業中の教師のポジティブな声掛けは1回目の授業では24回だったものの、2回目では50回、3回目では96回と、約4倍に増加しました。50分授業で96回というのは、1分に約2回は生徒に声掛けをしていることになります。これはかなり多い印象ですが、それだけ声掛けの語彙(ごい)を学校全体で先生方が検討し、その機会が増えるよう討議会で議論が深められた結果であると言えるでしょう。また、このような授業研究の結果、生徒の学習成果(定期考査の結果)も向上したことが実証されました。
教師や子どもの行動に焦点を当てることで、ポジティブ行動支援の考え方やABCフレームに基づいて具体的な改善策を見いだしやすいことから、みんなが前向きな授業研究を実現していくことができました。
※本実践の詳細は「松山・山田(2023)中学校における教員の授業中のフィードバック増加 を目的とした授業研究が生徒の学習成果に及ぼす効果―応用行動分析学の“ABC フレーム” に基づく授業改善― 東京学芸大学紀要論叢 1, P23-32」をご参照ください。