【給特法考㊥】「文科省の恣意的解釈こそ問題」 阪大・高橋准教授

【給特法考㊥】「文科省の恣意的解釈こそ問題」 阪大・高橋准教授
大阪大の高橋准教授=本人提供
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 公立学校の教員に対し、月給の4%を上乗せ支給する代わりに残業代を支給しないことを定めた給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)には、「定額働かせ放題」との批判がある。これに対し、「給特法の妥当な解釈とは言えない」と異を唱えているのが大阪大の高橋哲准教授(教育法学)だ。給特法問題の本質はどこにあるのか。高橋准教授に見解を尋ねた。

給特法は「定額働かせ放題」ではない 


――給特法に対する「定額働かせ放題」との批判は適切ではないと考えているそうですね。なぜそのように考えるのですか。

 「定額働かせ放題」というフレーズは、学校現場における現状を広く知らせる上で非常に分かりやすく、教員を含めた多くの人が給特法について考えるきっかけを作ったという意味では有効だったと思います。ただ、給特法を正確に理解しているとは言えない点に留意する必要があります。

 労働条件の最低基準を定めた労働基準法は、1日の労働時間の上限を8時間と定めています。やむを得ず残業をさせる場合には、通常の賃金よりも割高な残業代を支給することが使用者に課されます。また、同法36条に基づく労使間協定(36協定)によって残業の上限や対象業務などを定めることも義務付けています。

 これに対し、公立学校の教員は、労働時間を1日8時間以下とする基本原則は適用されつつ、残業代の支給や36協定の締結ルールの適用対象からは除外されています。その代わり、①校外実習や生徒の実習②修学旅行などの行事③職員会議に関する業務④非常災害や緊急時――の4つの業務(超勤4項目)を除いて、残業を命じることができない仕組みになっています。こうした特殊ルールを定めているのが給特法です。

 問題は、超勤4項目以外で残業をせざるを得ない教員たちの現状をどう捉えるかです。こうした残業について、労働法の一般的な学説は、労働時間と解釈して残業代の支給対象になると考えています。これに対し、文部科学省や教育委員会は「自発的にやっているので労働時間ではない」と主張しています。つまり、教員に残業代が支給されない根本原因は給特法ではなく、文科省などの恣意(しい)的な法解釈にあるというのが私の考えです。仮に給特法が廃止された場合でも、この部分が変わらない限り、教員の時間外勤務に対して残業代が支給されないままとなり、働き方の改善にはつながらない恐れがあります。

部活動の扱いや持ちコマの上限、労使協議で決めてはどうか 


――それでは、現行の給特法には問題はないのでしょうか。

 そうではありません。給特法にはいくつかの問題があると考えています。その中で最も大きいのは、36協定の締結などの労使間協議の道を閉ざしていることです。

 例えば、中学校や高校の部活動改革が大きな論点となっています。文科省は活動時間の上限などをガイドラインで定めていますが、教員が抱える事情や子どもたちの課題、運動や文化活動に親しめる環境などは地域・学校ごとに異なるわけですから、現場レベルの労使間協議で部活動のルールを決めていくことが望ましいように思います。36協定の枠組みをもとに、部活動のための残業をそもそも認めるのか、そうであればどのくらいを上限とすることが妥当かという点について、労働者側の意見が反映され、教員の長時間労働を回避しながら、子どもたちにとって必要な教育活動を維持することができます。

 授業準備時間などを確保するために、1人の教員が受け持つ授業数(持ちコマ数)に上限を設けるべきだという議論も最近盛んになってきましたが、これも労使間協議の枠組みがあれば、解決できるのではないでしょうか。実際、米国では労使間の話し合いによって、持ちコマ数の上限や授業準備のために必要な空き時間を定めている地域があります。

 ――給特法の在り方については近く、中教審の特別部会で本格的に議論されそうです。

 中教審の議論を見ていて疑問に思うのは、現場教員(労働者側)の代表と言える委員が見当たらないことです。これは、学校や地域単位での労使間協議の枠組みが認められていないのと同じ構造だと言えます。国の政策と現場レベルの両方において、労働条件や教育条件を決める際に現場教員の意見を反映させる仕組みが整っていない。このことが「働き方改革」が進まなかった一因だと考えます。

 例えば、重要な労働政策について審議する厚生労働省の労働政策審議会(労政審)は、「労働者代表」「使用者代表」「公益代表」の3者で構成することになっています。労使の双方の意見を反映し、公益性にも配慮しながら政策議論を進めていくための仕組みだと言えます。中教審も教員の労働条件について議論するのであれば、労政審と同じようなメンバー構成にするべきではないでしょうか。

最終的に目指すべきは学校自治の実現


――公立校にも労使間協議や36協定の締結を認めれば、管理職の負担が増えるといった声もあります。また、教員の労働条件ばかりが優先される懸念はないでしょうか。

 教職員の思いを学校運営に反映させたり、労働時間や健康状態にきちんと目を配ったりするのが、管理職の仕事なのではないでしょうか。これは民間企業や私立学校では当たり前のことだと思います。

 教員の労働条件というのは、子どもたちの教育条件に直結する問題であり、教職員だけで決めていてよいのかという議論は確かにあると思います。地域住民や保護者、当事者である子どもたちも参加しながら議論していくのが望ましい姿です。労使間協議というのは、こうした学校自治を実現していくために必要な第一歩であるというのが私の考えです。

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