第1回 一人一人の子どもの支援を支える「心理に強い先生」

第1回 一人一人の子どもの支援を支える「心理に強い先生」
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 全ての子どもが発達する過程で、多くの大人の援助を必要としています。アフリカには「子どもを育てるには一つの村が必要だ」という有名な格言があります。日本でも「チーム学校」という方針が、行政の大きな柱となっています(文部科学省,2015)。

 本連載では、チーム学校を支える学校心理学の枠組み(石隈,1999)を参照し、現状の生徒指導・教育相談などにおける課題に触れながら、「心理に強い教師」の意義と活用、スクールカウンセラー(以下SC)を含む支援体制などについてお話しします。

 日本の社会はメンバーシップ型雇用が中心ですが、ジョブ型雇用が導入されてきています。例えばメンバーシップ型では会社に入ると「正社員」としてさまざまな仕事をしながら定年退職まで働く終身雇用ですが、ジョブ型では会社は必要な「仕事」ができるスキル、経験、資格を持つ人を求め、社員も仕事のスキルアップをしながら自分をより評価してくれる会社に転職していきます。

 日本の学校は、メンバーシップ型雇用が基本です。教師が子どもの学校生活の全ての課題に対応することが、社会から期待されています。しかし、不登校やいじめ、発達障害による困難など学校生活の苦戦、児童虐待やヤングケアラーなど家庭生活の課題など、教師だけでは子どもの学校生活の質を維持することができないことに、私たちも気付いてきました。それが「チーム学校」の政策であり、教職員の「仕事」に着目し、SCやスクールソーシャルワーカー(以下SSW)の雇用などジョブ型雇用を取り入れようとするものです。

 チーム学校とは、「教師だけで学校教育の質を維持することはできない」という考えと「学校だけでは子どもの多様なニーズに応えることができない」という考えの2つの側面から成り立っています。つまり、学校では教師間の連携の強化だけでなく、教師がSCやSSWとチームを構成して学校教育にあたるという考えです。SCやSSWは「専門スタッフ」という位置付けです。そして、学校・家庭・地域の連携が強調されています。

 例えば、子どもの不登校に関する援助をするとき、教師とSCらの連携が標準となってきました。そして、教師とSCとのチームには多くの場合、教育相談担当、養護教諭、特別支援教育担当が参加します。つまり、教師とSCを教育相談担当ら、「心理学の知識があり、心理教育的援助サービスに強い教師」(以下、本稿では「心理に強い教師」)が、コーディネーターとして橋渡しをしているのです。心理に強い教師は、子どもの苦戦への早期対応を行うことができる学校のキーパーソンと言えます。従って、学校における子どもへの援助は、全ての教師、心理に強い教師、学校教育に強い心理職(SC)の3つの層から成り立っています。どの層が弱くても、一人一人の子どもへの援助は充実しません。

【プロフィール】

石隈利紀(いしくま・としのり) 東京成徳大学特任教授。米国・アラバマ大学大学院博士課程修了、学校心理学でPh.D。スクールカウンセリング、チーム援助、多文化間心理学の実践と研究に取り組む。筑波大学では副学長・理事として附属学校教育局の教育長を務め、2016年より東京成徳大学教授。24年4月より現職。カウンセリングにおいては論理療法に興味を持ち、創始者である故アルバート・エリスに学ぶ。日本スクールカウンセリング推進協議会理事、学校心理士認定運営機構理事長、日本公認心理師協会副会長、日本学校心理学会理事長。HPやX(旧ツイッター)でも、スクールカウンセリングについて発信している。

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