第3回 自分の「命の声」に耳を傾ける

第3回 自分の「命の声」に耳を傾ける
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 議論(ディスカッション)はパーカッションと語源が同じで、両者の意見の違いをたたいて分解し、一つの結論を出すことが目的です。一方、対話(ダイアログ)は、ギリシャ語の意味(ロゴス)を通す・流す(ディア)からきていて、同じ言葉や事象に対してそれぞれが持つ異なる多様な意味を分かち合い、理解を通すことを表しています。自分の無意識的な前提(メンタルモデル)に気付き、相手の意見や行動に対する解釈や評価のメガネを外して、その奥にある相手の「願い」を感じ取ることが「他者との対話」の入口です。

 意見の奥にある「願い」を知るために、NVC(非暴力コミュニケーション)という概念を使っています。課題解決には、何が正しくて何が間違っているかという判断軸が必要ですが、二元軸は意見の相違や対立を生むことにつながります。意思決定をすると、教員同士で意見が違ったり、学校と保護者で対立が起きたりすることは自然なことです。

 NVCでは、そうした対立や分断を乗り越えていくために、そこにどんな感情があったかを内省していきます。感情(emotion)は、エネルギー(e)の動き(motion)です。激怒も爆笑も、同じようにエネルギーが大きく動いている状態です。感情の奥には自分が「大切にしたい願い(ニーズ)」があり、それが満たされるとポジティブな感情として、軽視されたり尊重されなかったりするとネガティブな感情として、メッセージがやってきます。

 怒りやねたみなどのネガティブな感情を悪いものとして感じないようにふたをすると、自分が大切にしたいことが分からなくなっていきます。怒りも悲しみも喜びも、どんな感情も全てが必要なメッセージであり、自分を知る「糸口」なのです。

 願いは一つだけでなく多様でたくさんあり、抽象的で言葉に表しにくいのですが、NVCには年齢や性別、人種を超えて人間なら誰もが満たしたい願いを言語化した「ニーズリスト」というものがあります。私はニーズと感情を表す言葉をそれぞれカードにして、子どもの対話の授業から教員研修まで、同じカードを使って対話をしています。

 教師は、学校で突発的な出来事が起こるとすぐに解決しなければならず、いちいち立ち止まって「どんな感情があるのだろう」なんて考えている暇はありません。どんなに落ち込んでいても、子どもの前では元気でいようと努めます。自分のことは後回しで、子どもや保護者への対応を優先し、感情労働とも言われるほど自分の感情を表に出さないことが求められます。そうした職業だからこそ、本当はどんな感情があり何を願っていたのか、教員が自分自身の「命の声」に耳を傾ける場を持つことは、何よりも大切で必要なことだと感じています。

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