全ての教員が省察を深め、安心安全から分かち合える関係性を育んでいった葵小では、「教職員一人一人が幸せになる」を大前提として、数々の取り組みが共創造されていきました。
多くの場合、学校教育目標は校長が中心になって決めます。しかし葵小では、毎年4月に新任の教員を含めた教職員全員で、それぞれの願いを対話しながら、年度の目標を設定しています(「葵戦略会議」)。数年前からは、高学年の児童も会議に参加するようになりました。大人が決めた目標ではなく、自分たちも一緒に作った教育目標の実現に向けて、児童一人一人が各授業で自分に適した課題設定とルーブリックによる自己評価を行っています。
教職員たちも学年会でさらに対話を深めて学年団としての願いを定め、日々振り返り、主体的・対話的な学年運営をする仕組みになっています。その結果、全教職員・全児童が「学校教育目標」を合言葉のように空で言える学校になりました。
葵小では、働き方改革=生き方改革と捉え、教員個々の人生全体のイキイキ度を分かち合い、教育目標と教員の幸せを実現するための「業務効率高め、教育の質上げ隊」が結成されました。ある曜日の夕方には職員室にカフェのようなBGMが流れ、各自が業務に集中する時間になり、18時前にはほぼ全員が退勤するそうです。
教職員の対話から、児童と教員の興味関心に基づき自由なテーマで行う探究学習「あおいカレッジ」が発足しました。コロナ禍などのさまざまな課題を対話によって乗り越え、教員のワクワクや人脈を出し合って活動の資源を見える化し、ICTを最大活用。1ゼミ20~50人、4~6年生が交ざる異年齢集団がテーマごとにゼミ形式で探究し、児童自身が課題設定と評価を行っていきます。教員もまた、探究学習における関わり方の転換「指導から支援」「何を教えるか→どういう仕組みをつくるか」を模索し、探究していきました。
対話の土壌で育まれた探究学習の成果として、強く印象に残った児童の言葉があります。
鴨川の汚染について探究していたAさんの言葉です。コロナ禍の影響で飲食店が閉まり、川沿いで飲食したごみを捨てる人が増えている現状を知って出てきた問いが「ごみを捨てた人のニーズ(願い)は何だろう?」でした。
「川は汚すべきではない」「マナーは守るべき」と批判するのではなく、対立する相手の行動の奥にある願いを理解しようとするAさんの発言からも、対話を「する(Do)」を通して、対話的な「在り方(Be)」が醸成されていることが伝わってきます。それは葵小の教員一人一人が省察的な実践を積み重ね、対話的な在り方を体現してきた証しなのだと思います。