子どもたちをもっと信じて、自由にさせてあげてください――。こう言うと「何でも許すと子どもたちになめられる」「学級が荒れる」という心配の声が多くの教師から上がるでしょう。
教員2年目に、前年度に大荒れした学年を担任しました。始業式の日からエスケープする子どもが4~5人いる状態で、授業中も全く落ち着かず、何度注意しても状況は変わりませんでした。
そこで、立ち歩きや私語を活用した活動的な授業を試みました。授業に参加しない子どもたちが参加しやすくなることを期待してのことです。また、関係性がこれ以上悪化しないよう指導の深追いを避け、一度指導したら後は流すことにしました。こうした取り組みを続けた結果、子どもたちは次第に落ち着いていきました。
大学院で「学級づくり」を研究し、全国の教室を参観した際に、教師がルールや学習規律を守らせようとし過ぎると小言や叱責(しっせき)が増え、学級が荒れることが分かりました。逆に、「いい学級」と評される学級では、担任は指導を緩め、友達を傷つけない限り子どもたちを自由にさせていたことが多かったのです。そうして指導を厳しくすることが必ずしも良い結果を招くわけではないことが分かったのです。
これらの教室の違いは学級内に「秩序」があるかどうか、つまり学級内に「心理的安全性」が醸成されているかどうかだったのです。「心理的安全性」とは、メンバーが自己表現を恐れることなく、自分の意見や感情を自由に表現できる環境を指します。このような環境にあるクラスでは、子どもたちは安心して学び、成長することができます。教師が柔軟な指導を行い、子どもたちが互いに尊重し合うことで、心理的安全性が高まります。その結果、クラス全体の雰囲気が良くなり、学習成果も向上するのです。
学級づくりのゴールはルールを守らせることではありません。ルールはあくまでも子どもたちが自分を大切にし、他人を傷つけないための手段であるはずです。
自由進度学習や協働学習のように、子どもたちに学びのコントロールを委ねる実践がうまくいかないときは、先行実践を追実践するだけではなく、教室内の「心理的安全性」を確立するよう意識してみてください。子どもたちに学びのコントロールを委ねる実践がうまくいかない原因の多くは、教室内に「心理的安全性」が醸成されていないことが多いからです。