第8回 「深い学び」について 実践編⑤

第8回 「深い学び」について 実践編⑤
【協賛企画】
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 2021年の11月、3年生を担当していた時、宇宙開発を題材とした単元を実施しました。宇宙開発と言ってもさまざまなフェーズがあるため、中でもトピックとして扱われることが多い「火星の植民地化」と「地球外生命体探査」に焦点を絞り、単元を貫く主発問を「Which is More Beneficial for Humans, Colonizing Mars or Searching for Extraterrestrial Life?」としました。

 生徒たちは1年次に若田光一さんを扱った題材、2年次にはやぶさ(小惑星探査機)を扱った題材を学習しており、宇宙開発は他の理系トピックよりなじみがあります。関連した言語材料のインプットとアウトプットも経験しており、大学入試でも頻出の題材なので、目の前に入試を控えた生徒のニーズにも合致します。さらには鳥取西高校の卒業生に、世界初の人工流れ星をつくるスタートアップ企業の代表取締役である岡島礼奈さんがいらっしゃることも、宇宙開発を選んだ理由の一つです。生徒たちは、岡島さんの講演を2年前に聞いています。岡島さんの掲げるミッションやビジョンは、生徒の価値観や世界観を広げる契機になり得るもので、本題材を単なる情報のやりとりに終わらせないようにする上で鍵を握ります。

 生徒への発問を工夫することで、生徒がこれまで思い至らなかった「宇宙開発」の価値や意義に気付かせ、生徒の価値観や世界観に揺さぶりをかけることも可能な教材です。インプット素材として、イーロン・マスク氏の「Space X」、ジェフ・ベゾス氏の「Blue Origin」に関する英文も使用しました。

 単元のまとめとなるメインのコミュニケーション活動では、主発問を利用した3人によるディスカッションを行います。その際、地球外生命体を探すことに賛成する立場になるのか、火星植民地化に賛成する立場になるのかはディスカッション開始直前に決まりますので、発話の即興性も試されます。

 本単元はこのディスカッションで終わりとせず、自分の意見をSDGsに関連させる試みを行いました。SDGsの17のゴールを英語で確認し、「Searching for Extraterrestrial Life」あるいは「Colonizing Mars」の利点が、SDGsのゴールとどう関連するのかを考察させました。自分の意見に対して、SDGsの視点に立脚した新たな価値付けをすることが狙いです。

 教科横断的な視点で言えば、今回のテーマは地学の学習内容に重なります。授業に参加している約20人の生徒の中に地学基礎を選択している生徒が5人いて、教科書の内容は全て学習済みです。また、宇宙開発の是非を問う場合、正解は一つではなく、どのように生きるかという問いにも触れる部分があり、その意味で倫理とも関わりがあります。ただし、教科横断はあくまで手段であって目的ではありません。単元や授業のゴールに迫る上で、教科横断が必然の手段だったという流れの方が理にかなっています。

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