第7回 ラインケアで求められる理念「Person-centered care」

第7回 ラインケアで求められる理念「Person-centered care」
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 教員のこころのために管理職に求められることは、定石通りであれば「ラインケアが生まれやすい職場づくり」でしょう。そのために必要な組織運営の方法はさまざまな書籍や研修で語られていることですし、ここであらためて述べることでもないと思います。一方、教員のこころのケアに携わっていると、組織運営の方法以前に、必要な理念が管理職に備わっていたらと思うことがあります。

 人が人のこころをケアする際に備えたい理念の一つに「Person-centered care」があります。ケアの際に本人の回復を目標にするとともに、本人らしさを大切にし、本人に生じる行動やこころの変化は身体的・社会的な苦痛への対処の結果であると理解する理念です。

 人が人をケアする時、ケアする人は時として本人よりも周囲の人への配慮をしてしまいがちになります。ケアは本来、本人の回復を目標とすべきなのですが、周囲の不安や負担を減らそうとすると、たいていの場合は失敗します。

 例えば、教員の復職支援に際して、本人の回復水準よりも学期や年度の区切りを優先してしまうことがあります。うまくいくこともありますが、本人の回復が不十分なまま復職時期を決めてしまうと、復職後の再休職を招きやすくなります。再休職は教員としての自信や自己肯定感を傷つけ、復職への恐れを強めます。もちろん、児童生徒や保護者、同僚などへの配慮は欠かせませんが、大切なことを決める際には本人を中心に考えることが大切です。

 こころの不調が生じた人に、いら立ちやぼんやりとした様子、同僚との関係における不和などが生じると、ケアする人は本人に尋ねないまま、こうした変化を精神疾患の症状と捉えてしまいがちです。しかし、身体的な痛み、治療薬の副作用、周囲の人たちの腫れ物に触れるような態度や心ない発言によって生じた心理的苦痛が、こうした変化の原因になっていることが少なくありません。変化を精神疾患の症状と捉え、本人に尋ねないままでいると、身体的な苦痛、心理的な苦痛は変わらないばかりか強まってしまうことがあります。

 こうした状況は、教員のこころのケアにおいても生じることがあります。変化に気付いたら、精神疾患の症状だと解釈する前に、プライバシーの保たれる場所で本人に尋ねることが、こころの苦しみを持つ人の孤独を和らげ、原因への対処を可能にしてくれるのです。

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