目指すべき近未来の社会の姿「Society 5.0」。2016年に閣議決定され、「第5期科学技術基本計画」において内閣府が提唱した日本オリジナルの概念です。「サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の創造社会(Society)」を意図しています。
このような時代の到来に伴い、どのような「学び」を構築する必要があるのか。時代や社会に合わせて「学び」を変革する必要があります。これまで日本では、大量生産・大量消費の経済成長を支える「ルーチンワークを早く正確に行うことのできる人材」が求められてきました。そのような人材育成に適合した「学び」、それが「一斉指導」と言われる授業デザインだったのではないでしょうか。「社会」が変われば「学び」が変わる。未来社会をたくましく生き抜くための資質・能力を育成するために、「主体的・対話的で深い学び」が学習指導要領で示されています。
10年以上前になりますが、世界的半導体メーカーであるIntel(インテル)が主催する教育関係者の会合に参加する機会がありました。英国オックスフォードの大学施設で開催された、世界各国の教育関係者が集まる会合です。世界各国で展開されている「Intel? Teach Program」という教員研修についての実践発表で、課題解決型学習(Project Based Learning)や探究学習を通じて、これらの未来社会に向けて資質・能力などを子どもたちにどのように育むかを考える会合でした。
この会合の中で印象に残ったのが「Collaborative Problem Solving(協調型問題解決能力)」というフレーズです。複雑化、多様化、不確定な未来の社会課題を解決するために、サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間をつなぐテクノロジー(先端技術)を駆使して、多様な他者とコミュニケーションを重ね、共にコラボレーションして課題を解決していくという資質・能力です。
帰国後、間もなく「主体的・対話的で深い学び」というフレーズが日本でも広がっていくことになります。まさに「Collaborative Problem Solving」だと強く感じるとともに、日本の教育は10年近く「学び」の変革が遅れていると感じました。
現在、全国的に「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善が進められています。ただ、「主体的・対話的で深い学び」自体が目的となってしまっている授業改善が多いように感じます。
目的はこれからの時代に合った「学び」の変革です。「主体的・対話的で深い学び」や「GIGA端末の活用」は、あくまでも手段です。明確な目的を持ち、「学び」の変革に取り組む必要があると考えています。
【プロフィール】
駒崎彰一(こまざき・しょういち) 私立高校の保健体育科教員としてスタート。公立中学校に移り、東京都葛飾区・品川区立中学校の3校で勤務後、葛飾区教育委員会事務局指導主事・教育CIO補佐官を務める。その後、江東区立中学校の副校長を経て、荒川区教育委員会事務局統括指導主事を3年間務める中で、学習者1人1台端末の導入を担当する。葛飾区教育委員会事務局統括指導主事、中野区立緑野小学校長、渋谷区立笹塚中学校長を経て、現職。文部科学省・総務省・経産省「未来の学び」コンソーシアム運営協議会委員、文科省ICT活用教育アドバイザー、デジタル教科書活用検討委員、学校DX戦略アドバイザーなどを務める。