前回は、情報不足による「基本的帰属のエラー」を乗り越えるために、BPSモデルを活用して想像力を高める必要があることについて述べました。特に「無気力」などの心理学的要因に目を奪われて、生物学的要因や社会的要因が見えていないケースは意外に多いように思われます。
ただ、世の中には不登校の「要因」になりそうなものが無数にあり、際限なく想像するのは難しいと言えます。よって、さまざまな調査データを突き合わせて「見逃されがちな要因」を探っておく必要があります。実は、その代表例の一つが「いじめ」です。
文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果をさかのぼってみると、不登校の理由として長らく「無気力・不安」が全体の5割を超えていました。一方で、「いじめ」はわずか0.3%(2022年度)にとどまっていました。
2023年度から調査の様式が変更され、不登校の理由かどうかにかかわらず、当該児童生徒に関する情報として把握しているものを問う形になりましたが、それでも「いじめ」は1.3%に過ぎませんでした。これが学校・教員側の視点から回答された数字です。
一方で、文科省による別の調査(「令和2(20)年度不登校児童生徒の実態調査」、令和6(24)年3月公表「不登校の要因分析に関する調査研究」)で本人や保護者に回答を求めると、「いじめ」を挙げるケースが約3割にも上っています。
当事者視点での「約3割」という数字と学校視点での「1.3%」とのギャップには、第2回で触れた「基本的帰属のエラー」による見逃しも含まれていると推察されます。つまり、いじめという社会的要因を見逃したまま、「無気力」などの心理学的要因に帰属している可能性があるのです。
ちなみに、13年に制定されたいじめ防止対策推進法では、いじめにより相当期間の欠席を余儀なくされている「疑いがある」時点で「重大事態」と見なして組織的に調査することを求めています。すなわち、この数字のギャップは、不登校の要因の見逃しのみならず、法的な「重大事態」の見逃しを意味することにも留意すべきです。
不登校の児童生徒が3~4人いれば、そのうち1人は「重大事態」に該当していると考えなければなりません。つまり、日本中のほとんどの学校において現在進行形で「重大事態」が発生していて、その大半が気付かれないまま潜在していると言っても過言ではないのです。
24年8月には文科省が「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の改訂版を公表しています。「バイオ・サイコ・ソーシャル」を合言葉に、不登校の背景に「いろいろあるかもしれない」という構えを持っておくことが大切です。