他者と共に語り合い、さまざまな視点から物事を問い深めていくことが「p4c」の目指している対話です。そうした対話を進めていく上で、最も基本であり、重要なことは、多様な声が共有される場をつくることです。対話の場の「セーフティー」をいかに育むかを考えていく必要があります。
セーフティーが高い対話の場とは、どのような状態を指すのでしょうか。セーフティーが何かを理解するには、むしろそれとは逆の状態、すなわちセーフティーが欠けている状態を想像してみるとよいでしょう。「自分の考えを話したら馬鹿にされるかもしれない」「きっと他の人も同じように考えているから話さなくてもいい」「出しゃばりと思われたら嫌だ」といった思いがよぎり、心の中で考えていることがあっても「言わなくてもいいや」と発言をためらった経験は誰しもあるはずです。「p4c」では、こうした状況を「セーフティーが欠けている」と捉えます。こうした思いを取り除き、さまざまな声が語られる場をつくることが、対話をする上では重要なのです。
セーフティーは、「p4c」の対話が生まれる土壌のようなものです。この土壌がなければ、豊かな対話は育ちません。異なる視点を共有すること、考えを批判的に掘り下げていくこと、自分の当たり前を疑ってみることなど、セーフティーを感じられるからこそ伸び伸びと自由に思考を巡らせることができます。「p4c」では「共に考えるコミュニティーの育成」と「思考の深まり」は連動していると考えていて、これらを両輪として対話を進めていくことを重視しています。
では、対話の場のセーフティーは、どのようにして高めることができるのでしょうか。セーフティーを育むためにすべきことは、状況によって異なります。「p4c」の対話は基本的に円座で行いますが、そもそも円座になることができない、一部の人しか話さない、異なる考えを提示しづらい…など、対話の場づくりにおける課題はさまざまです。クラスメートとの関係性、他者と比べての自己評価、間違ってはいけないというプレッシャー、教師との関係性など、セーフティーを阻害する要因にはさまざまなものがあります。クラスの状況を踏まえて、どのような時に話しづらいと感じるか、どのような時に話を聞いてもらえたと感じるか、批判的な空気にならずに異論を提示するにはどうしたらよいかなどを、子どもたちと一緒に考えていきます。
新潟県胎内市立築地小学校では、3年生の児童が「セーフティーの高い対話とは?」というテーマで「p4c」」をしていました。ここでは、「否定されたと思うと不安」「否定しているわけじゃないかも」「でも相手が否定と思ったらセーフティーじゃない」「誰かが否定すると、その友達も否定したりする」「ふわふわ言葉を目標にできないか」などと対話が続きました。「そもそも否定って悪いことなの?」という論点も浮かび上がりました。対話のプロセスそのものを振り返る対話を通して、クラスに合ったセーフティーを少しずつ育む姿がありました。