第8回 教員の複業制限、その裏にある見過ごされたリスクとは

第8回 教員の複業制限、その裏にある見過ごされたリスクとは
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 前回は、教員が複業を始める際に直面する法律や手続きの壁について整理しました。今回は、複業の制限がどのようなリスクを生むのかを解説していきます。

教員の研究と修養の観点

 社会の変化が激しくなる中、教員の意識が学校内のみに向くと、新たな知識や技術を学ぶ機会を失います。 教員は子どもと社会をつなぐ役割を担うはずですが、学校の中に閉じ込められていては、その使命を果たせません。

 複業を通じて外の世界で価値を発揮し、その経験を教育に還元することは、教員の能力向上にもつながります。教育公務員特例法第21条では、「その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」とされています。変化の激しい現代において、学校外で学ぶ機会を奪うことは、むしろ法の趣旨に反しているのではないでしょうか。

教員の採用や離職に関する問題

 現在、若者の就職観は大きく変わり、「キャリアの柔軟性」 を重視する傾向が強まっています。一方で教職は「一度就いたらキャリアチェンジが難しい」「働き方の選択肢が少ない」と見られることもしばしばです。

 また、私は社会人の方から「教職に興味があるが、複業ができないから選べない」という話をよく聞きます。「自分が大事にする活動を続けながら教育にも携わりたい」 という志を持つ人材を結果として拒んでしまっているのです。

 SNSを通じて他の業界の柔軟な働き方と比較することが容易になった今、積極性のある人材が学校に定着しづらい状況は、今後加速していくのではないかと危惧しています。

子どもや保護者にも影響は及ぶ

 複業の制限は子どもや保護者にも影響します。例えば、不登校の増加は生き方や教育の選択肢が広がったことと無関係ではないでしょう。さまざまなニーズを持った子どもたちに向き合うためには、教員の多様性を醸成していく必要があります。そのためには学校や教育のことを垂直方向に極める教員と、越境して水平方向に探索する教員の両方の力が必要です。しかし、現状では前者が圧倒的に多く、後者の「越境先生」は噴きこぼれてしまっています。このバランスの悪さは、手遅れになる前に是正すべきだと考えています。

複業は教育をアップデートするための手段

 複業を制限することは「教員が社会とつながる機会を奪い、教育の進化を妨げる」 というリスクを生みます。

・学校の外で活躍し、評価を受けることで、教師自身の成長につながる

・その経験を教育に還元することで、学校が社会とのつながりを持ち続けられる

・結果として、子どもや保護者にもより多様な学びの選択肢が生まれる

 教員の複業は単なる副収入の手段ではなく、教育を社会と結び付けるためのカンフル剤なのです。

拙著『先生が複業について知りたくなったら読む本』(学事出版)より:パパ頭さん作

拙著『先生が複業について知りたくなったら読む本』(学事出版)より:パパ頭さん作
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