性教育の「はどめ規定」、次期指導要領で撤廃を 尾木直樹氏らが訴え

性教育の「はどめ規定」、次期指導要領で撤廃を 尾木直樹氏らが訴え
シンポジウムに登壇した尾木さん(写真右)と染矢さん=撮影:徳住亜希
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 学習指導要領の改訂に向け、小中学校の授業で受精や妊娠の経過を取り扱わないとする「はどめ規定」の撤廃を求めて9月10日、性教育に取り組む教員らでつくる団体がシンポジウムを都内で開催した。登壇した教育評論家の尾木直樹さんは「はどめ規定がなくなったら、学校現場の委縮した状況は相当変わる」と話し、子どもだけでなく教員も含めた「人権を基盤にした包括的性教育を具体的に進めていくことが必要」と訴えた。

 現行の学習指導要領では、小学5年理科に「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」、中学校の保健体育に「妊娠の経過は取り扱わないものとする」と明記している。

 これらは性教育の「はどめ規定」と呼ばれ、1998年度に学習指導要領に初めて盛り込まれた。はどめ規定について文部科学省は「決して教えてならないというものではない」との見解を示す一方、教えるにあたっては、保護者による事前の了承や地域の理解を得た上で、手段指導と個別指導を明確に区分することと説明。学校現場では実質的に「性交を教えてはならない規定」として解釈されてきた。

 シンポジウムには主催団体「“人間と性”教育研究協議会」(性教協)のメンバーである教員をはじめ、尾木さんら賛同者が登壇した。

 保健体育の教員として35年以上、中学校で性教育を実践してきた樋上典子さんは、教え子の中に「コンドームは指にはめるものだと思っていた」生徒が複数いたと明かす。中学校の保健体育の教科書を指し、性交渉による妊娠や妊娠中絶の記載がないと説明。性感染症や予期せぬ妊娠、児童買春などの性的搾取が子どもたちに及んでいると危惧した。

 はどめ規定の影響については、性教育の実践に向け、都内にある区の教育委員会に働き掛けたところ、「はどめ規定があるからできないと言われた」と明かす。2000年代初頭に性教育バッシングが起きて以来、学校現場は「保護者からの批判を恐れ委縮している」と強調した。

 性教育を巡っては教員と生徒の「温度差」も目立つ。外部講師として学校現場で性教育に取り組むNPO法人ピルコン代表の染矢明日香さんは、講演先の中学校の教員から「うちの生徒は幼いから」「性への関心が表面化していない」との言葉を頻繁に耳にするものの、生徒からは性行為に関する相談や質問が相次いだと明かす。

 染谷さんは、SNSが浸透した現代は小学生でさえセクハラや搾取の被害に遭う時代だとして、「幼いからこそ信頼できる情報から学ぶことが大切」と訴えた。

 一方、尾木さんは教員による児童生徒への性暴力事件が相次いでいることに触れ、「子どもだけでなく教員自身が、科学的根拠や人権に根差した包括的な性教育を受けていない」と指摘。教員自身の学びが必要だとして、「はどめ規定を撤廃することで教員の視野が広がる。包括的性教育に向けた動きも展望が開けてくる」と期待を寄せた。

 性教協では、はどめ規定撤廃に向け「実行委員会」を起ち上げ、8月下旬からオンライン署名を開始。署名は9月11日時点で2万2628筆に上っている。 実行委員会によれば、11月中に文科省に提出する予定だという。

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