【保護者と信頼関係を築く(1)】保護者との関係づくりに戦々恐々とする教師たち

【保護者と信頼関係を築く(1)】保護者との関係づくりに戦々恐々とする教師たち
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 文科省が「学校における働き方改革」を提起するなど、教師のこれまでの働き方を見直す動きが活発になっている。特に、残業時間を改善しようとする動きは顕著で、同省から出された「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」においては、時間外勤務の上限の目安を1カ月あたり45時間、1年あたり360時間などと設定している。

 確かに、教師の働き方を改革していく上で、時間的な制限を設けることは一つの方法と言えよう。ただ、教師が退勤したという実績づくりのため、「先生方。もう時間なので、帰りましょう」と管理職の音頭で職員室を施錠したとしても、持ち帰り仕事が膨大にあったとしたら、働き方ではなく働く場所が変わっただけの話である。実質的な働き方改革という観点から、継続的な見直しが必要だと考える。

 仮に、持ち帰り仕事もなくなった上で、実質的に残業がなくなったとしよう。それでも、我々教師のストレスが全て解消されるわけではない。校務以外に、子どもとの関係、同僚との関わり、保護者対応など、人間関係に起因する悩みが消えないことがあるからだ。

 子どもや同僚との関係については、「明日もう一度話をして、関係を取り戻そう」と、修復のチャンスは毎日のように訪れる。

 一方、保護者との関係についてはそう簡単には進まない。関係づくりをするには、手紙や連絡帳などで文章にしなければならないからだ。これが難しい。

 「下手をしたら言葉尻を捉えられて、もめ事になってしまいます」

 一行書き進めるのに、我々教師は四苦八苦する。電話での確認もまた難しい。保護者がどのように出てくるのか分からず、一通り心の中でリハーサルしてからということになるが、声だけでのコミュニケーションでは真意が伝わらないことも多い。連絡方法や伝える内容が決まらず、「どうしよう…」と思いながら土日を迎え、休日も心が晴れなかったという話もよく耳にする。

 一般の人からすれば、「うまくいかない保護者なんて、何十人かのうちの一人か二人くらいでしょ」と思うかも知れない。ただ、感情労働に従事する我々教師は、ほんの何人かの保護者との人間関係づくりに四苦八苦し、それが大きなストレスとなるのである。確かに、残業時間が減ることは大切だが、精神的な働き方改革を進めていかなければ、電話一本におびえるような職場の雰囲気は改善されないだろう。

【プロフィール】

齋藤浩(さいとう・ひろし)1963年東京都生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、佛教大学大学院教育学研究科修了、佛教大学研究員、日本獣医生命科学大学非常勤講師などを歴任。著書に『教師という接客業』、『お母さんが知らない伸びる子の意外な行動』(共に草思社)、『チームで解決!理不尽な保護者トラブル対応術』(2022年5月)、『ひとりで解決!理不尽な保護者トラブル対応術』(共に学事出版)など現在まで12冊を刊行。

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