「教師の学び」や「学び続ける教師」という言葉に違和感を覚える人は少ないと思いますが、これらが教員政策の中で強く語られるようになったのが、ここ15~20年間の特徴と言えます。特に2005年以降に、教師の資質能力の在り方やその向上策を提言してきた中教審答申や公表されてきた審議のまとめでは、一貫して教師が学ぶことや学び続けることの重要性が主張されています。
第2回ではまず、教師の学びが登場する以前は、何が重視されていたのかに注目していきたいと思います。それは「教師の学び政策」とも言える展開の前史を見ていくことで、あえて「教師の学び」を強調することの意図や特徴をあぶり出したいからです。ここでは簡潔に2つのポイントに注目したいと思います。
一つ目は、現在も教員政策や学校現場でよく耳にする「実践的指導力」の登場です。この言葉は、臨時教育審議会第二次答申(1987年)で「人間愛や児童・生徒に対する教育的愛情を基盤とする広く豊かな教養、教育の理念や人間の成長・発達についての深い理解、教科等に関する専門的知識、そしてそれらの上に立つ実践的な指導力」と示されたことを出発点にしています。定義はあいまいですが、政策的には教員養成課程における生徒指導関連科目の必修化や教育実習の単位数引き上げが「実践的」であることの具体として実現されました。その背景には「非行」「暴力」「いじめ」など、当時の学校現場で生じていた問題への対処があります。後の回で触れますが、2000年代の「教師の学び政策」でも、「実践的指導力」を身に付けることが「教師の学び」として表現されています。
二つ目のポイントが、「養成段階で習得すべき最小限必要な資質能力」(97年7月28日、教育職員養成審議会第1次答申)を示し、さらに「初任者」→「中堅教員」→「管理職」という段階に分けて必要な資質能力を提示した(99年12月10日、教養審答申)、1990年代の教員政策の動きです。資質能力の「内容」を示した上で、それらを養成段階から現職段階を通じて身に付けていく「過程」を重視する視点は、教師の生涯を長期的に展望する「教師の学び政策」にも引き継がれていきます。
以上の2つのポイントは「教師の学び政策」にも反映されていますが、「教師の学び」を強調する2000年代以降の流れは、実践的指導力や段階的に示された資質能力を「教師自身が身に付けていく」という主体性まで踏み込んでいる点が特徴的です。次回はこの点について2000年代の政策の流れを見ていきたいと思います。