若手さん「グスッ、しくしく…」
ミドルさん「(あれっ?誰か泣いているぞ…?)」
私が最初に着任した学校は、東京都内の決して大きくない学校でした。女子職員トイレの個室の数はわずか3つ。その狭い空間で、一人の若手教員(若手さん)が泣いていました。そこへ通り掛かったミドルリーダー層の教員(ミドルさん)。さて、いったいどんなサポートをしていけばよいのでしょうか。
ミドルさん「どうしたの?私でよければ話してみてくれないかな?」
若手さん「ごめんなさい…これでも自分なりに努力しているつもりなんですが、もう頑張れなくて…」
話を聞くと、どうやら授業がうまくいかなかった様子。「周りの先生に迷惑を掛けちゃいけない」「職場で泣くなんて社会人失格だ…」彼女なりに気を遣っていたのでしょう。周りに悟られないように、授業の空き時間に個室の中でこっそりと泣いていました。
「授業がうまくいかない」「保護者からクレームがきた」「子どもとの関係がうまくいかない」など、教員になるとさまざまな悩みが出てきますが、職員室で共有できれば解決できるものがほとんどです。しかし、近年では全国各地で教員不足が深刻化しており、学校現場全体に余裕がなくなってきているのが現実です。この記事を読んでいただいている先生方の学校でも、若手教員の育成に時間を割きたいと思っていても、思うように余裕が持てなかったり、若手教員にとって居心地の良い職員室づくりができなくなったりしている状況があるのではないでしょうか。
悩みにぶつかったとき、一番つらいのは「自分は一人きりで戦っている」「誰にも助けを求められない」と行き詰ってしまうことです。TwitterなどのSNSを開けば、若手教員の「辞めたい」「つらい」「思っていたのと違う」といった嘆きがあふれています。私が出会った若手教員は、たまたまトイレで泣いていましたが、今の若手教員にとってはTwitterなどのSNSの場が、自分の素を出して本音を吐き出せる「トイレ」のような場所なのかもしれません。
あなたの学校には、トイレ(SNS)でこっそりと泣いていそうな先生はいませんか?一人も若手教員をトイレで泣かせたくない。一人でも多くの若手教員を子どもたちの前で輝かせたい。教師という素晴らしい仕事のやりがいを感じるまでに、何とかつぶれずに乗り越えてほしい…そんな思いからこの連載を書き始めました。
次回からは、若手教員を輝かせるために、周りの教員(特にミドルリーダー層)はどのようにサポートしていくとよいのか、その具体的な方法についてお伝えしていきます。
【プロフィール】
前川智美(まえかわ・ともみ)東京都公立中学校主任教諭。1988年佐賀県生まれ。長崎大学教育学部卒業。東京教師道場で2年間道場生として学んだ後、リーダーとしてさらに2年間若手教員の育成に当たった。プログラミング指導教員養成塾修了。全国の小学校の女性教員を対象とした教員養成プログラム「SteP」の外部アドバイザーを務めている。著書に『中学教師1年目の教科書』(明治図書出版)。