前回は「あなたのいばしょ」を設立するキッカケを紹介したが、今回は「あなたのいばしょ」の仕組みを紹介したい。あなたのいばしょは24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口だが、相談窓口が長年抱える課題を解決するために、さまざまなアプローチを試みている。
相談窓口が抱えている課題の一つは「相談員不足」だ。一般的な自殺相談の窓口は依然として電話相談が中心だが、相談員の多くは高齢化している。相談員に限らず、民生委員などもシニア世代が多く、高齢化は社会福祉・ソーシャルセクター全体の課題とも言える。相談窓口の多くは、相談員が事務所に出勤する体制をとっている。
2017年に発生した座間事件(犯人がSNSで被害者に声を掛け、9人を自宅に連れ込み殺害した事件)以降に発展したSNS相談窓口においても、相談員が事務所に出勤する体制をとっている団体が多い。窓口によっては、無償ボランティアが事務所で夜勤をする場合もある。相談員が事務所に出勤することにより、情報保全を容易にするほか、相談員同士が相談しやすい環境をつくることができる。一方で、事務所に出勤する体制に限定すると、相談員の配置は金銭的にも時間的にも余裕のあるシニア世代が必然的に多くなる。大企業も中央官庁もリモートワークを実施している昨今、匿名の相談窓口もリモートで対応することは可能だ。
こうした考え方の下、「あなたのいばしょ」では設立当初から、相談員は全てリモートで活動ができる体制を整えた。相談員の面接・座学研修・実地研修(OJT)・相談対応は、ラップトップPC1台あれば完結できる仕組みになっている。さらに相談活動のノルマを1カ月4時間と、他の相談窓口に比べて短く設定している。現役世代が「スキマ時間」にボランティアで相談活動ができるような環境を整えたのだ。この仕組みが功を奏し、1年に4回実施している相談員の採用には、毎回数百人から応募がある。現在は会社員、専業主婦・主夫、教員、医師、フリーター、学生など、幅広い世代が活動している。
全てリモートで活動できるという仕組みは、相談窓口が抱えるもう一つの課題「24時間対応の実現」のために有効なアプローチを生んだ。それが「海外に住んでいる相談員が時差を使って、日本の深夜帯の相談に応じる」というものだ。「あなたのいばしょ」は現在、世界27カ国に相談員を抱えている。相談が最も増えるのは日本時間の夜22時ごろから朝方にかけてだ。この時間帯は、海外在住の日本人相談員が対応している。昨年からは外務省と連携し、約130万人の在外邦人からの相談も受け付けている。例えば、アメリカに住んでいる日本人の相談をイギリスに住んでいる私たちの相談員が応じている。
「頼り・頼られる」という関係性に国境は関係ない。誰もがいつでも頼れる人にアクセスできる仕組みを世界中に広げていくつもりだ。