篠ヶ谷(2008)の研究では、歴史学習において、予習によって個々の史実の「なぜ」の理解が促されるものの、意味理解志向(知識のつながりの理解を重視する姿勢)の低い学習者にはそうした効果が見られないことが示されました。
では、意味理解志向の低い学習者にも予習を機能させるにはどうしたらよいのでしょうか。意味理解志向の低い学習者の場合、たとえ予習の中で個々の史実の知識を得たとしても、その「なぜ」について理解を深めていくことを授業の目標として認識していない可能性があります。そこで、篠ヶ谷(11)は、中学2年生の歴史学習を対象に、予習の中で設定された「なぜ」を問う質問に対して、「自分なりに解答(予想)を考えてみる」「自分の解答(予想)に対する自信度を5段階で評定する」といった活動を行わせ、授業での目標を意識させるようにしました。
その結果、予習で教科書を読み「なぜ」を問う質問を与えられたクラスよりも、先述した活動を行ったクラスの方が授業での理解が深まっていました。しかも、授業理解度に関して、意味理解志向による個人差が見られなくなっていました。つまり、この研究の予習活動は、意味理解志向の低い学習者の注意を史実の「なぜ」に向けさせ、理解を深めていく上で機能したと考えられます。
ただし、授業に向けた問いを教師から与えるだけでは、自らの理解を深めることのできる「自立した学習者」は育ちません。そこで、篠ヶ谷(13)の研究では、中学2年生の歴史学習を対象とした実験授業において、予習の中で問いを生成する手順を指導するクラスと、そうした指導を行わずに自由に問いを生成するクラスを設定し、介入の効果を検証しました。問いの生成手順の指導では、歴史学習ではどのような情報を押さえるべきか、その上でどんな点を問いにしていくべきかを教え、こうしたポイントをまとめたシートを見せながら問いを作るように指示しました。その結果、意味理解志向の低い学習者でも、「なぜ」を問う質問を多く生成し、しかも、そうした問いに関連するメモが多く見られるようになっていました。
以上より、予習を多くの学習者に機能させるには、問いを作る手順を教えたり、設定された問いを授業目標として意識化させる働き掛けを行ったりすることが重要となります。予習を学習指導に取り入れる場合、予習が効果を持つには、どのような支援が必要になるのかを念頭に指導を考える必要があると言えるでしょう。