近頃、メディア・行政・支援団体などが「子どもの『孤立』を防ぐ」という言葉を頻繁に使っているのを目にする。一方、筆者が理事長を務めるNPO法人あなたのいばしょでは「望まない『孤独』を防ぐ」という言葉を使う。「孤立」と「孤独」は相互互換的に使われることが多いが、これらは全く別物だ。
一般的に孤立(社会的孤立)は、家族やコミュニティーとの接触がほとんどない状態とされている。冒頭で述べた通り、「子どもの孤立を防ぐ」「若者が孤立しない社会」などとうたわれてきた。しかし、若年層は大人と比較して孤立しない場合が多い。それは、多くの若年層には家庭と学校という2つの環境が身近にあるからだ。すなわち、孤立の定義とされている「家族やコミュニティーとの接触がほとんどない状態」には当てはまらない。
一方で、若年層を取り巻く問題は深刻さを増している。近年、若年層の自殺者数・虐待通告件数・不登校生徒数などが軒並み過去最悪レベルに達していることからも、それは明らかだ。つまり、孤立はしていなくても、周りに頼ることができずに一人で悩み苦しむ「孤独」を感じている可能性が高いのだ。「孤独」とは主観的な概念であり、客観的概念である「孤立」とは異なる。「孤独」を英訳するとLonelinessだが、これは社会的関係の不足から生じる苦痛なものとされている。すなわち、頼りたくても頼れない、話したくても話せないといった「望まない孤独」と言える。
これに近い概念にSolitudeがある。Solitudeは自ら望んで一人でいる状態、すなわち「望んだ孤独」だ。日本語にすると「孤高」という言葉が近いのではないだろうか。筆者はこのSolitudeまでも否定しているわけではなく、人間関係などに悩んだときに、あえてその関係から離れて一人で過ごすことが必要なときもあると考える。
こうして孤立や孤独、LonelinessとSolitudeなどが混同されてきた結果、周りに人がいても誰にも頼れず「望まない孤独」を抱え苦しんできた多くの若年層に支援が届かなかった。そうした状況下で、新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、希薄化していた若年層のつながりは一層失われた。
私が理事長を務めるNPO法人あなたのいばしょが運営する「あなたのいばしょチャット相談」は24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口だが、2021年の相談件数は19万6837件に上る。その多くは29歳以下の若年層だ。