【ネットいじめの今(8)】評価の多元性とネットいじめ

【ネットいじめの今(8)】評価の多元性とネットいじめ
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 ネットいじめもリアルいじめも、そのリスクは共通して学力低位層の集団で高く、グループ内にあってはスクールカーストが低い子に攻撃が向きやすい傾向があります。では、ネットいじめだけに見られる傾向はあるのでしょうか。

 ネットいじめがリアルいじめと異なる点として、学力上位層やスクールカーストの高い生徒にも見られる点が指摘できます。学力階層別やスクールカースト別に被害を受けた割合をグラフ化すると、下位層の子どもだけではなく、上位層の子どもも高くなる「U字型」のグラフになるのです。その背景に、「評価の多元性」とそれにさらされた子どもたちの生きづらさを指摘する研究が見られます。

 東京大学の本田由紀は、子育てを大きく2つのタイプに区別しました。子どもの希望や意思を重視する「伸び伸び型」と、勉強や生活習慣を子どもに厳格に求める「きっちり型」です。本田は母親の学歴が高くなるほど、わが子に全方位型のしつけを求めることを明らかにしました。つまり、学歴の高い母親ほど、子どもに「あれもできるようになってほしい」「これもやってほしい」と望んでいるというのです。

 例えば、テストでは良い点を取ってほしいし、部活動には一生懸命取り組んでほしい。ボランティアもやってほしいし、ある程度の年齢になったら海外留学もしてほしい。というように、高学歴の母親はわが子が全てのことに対応できるよう、全方位的に能力を伸ばしてほしいと願っています。

 また、現在の学校教育は多様な評価尺度で子どもを見ることを奨励しています。近年は大学入試においても、学力を多面的に評価することが求められるようになりました。具体的には「主体性」や「協働性」などを評価対象とし、調査書を活用するなどして部活動等の活動実績も評価しています。

 つまり、以前のようにテストの点数だけで子どもたちを評価するのではなく、授業中の態度、課題に取り組む姿勢、生徒会活動、ボランティア活動、インターンシップ活動など、さまざまな活動に取り組む生徒の積極性や意欲も評価するようになったのです。生徒たちはさまざまな能力を高める必要が生じており、まさに全方向に適合するための努力をしなくてはならない状況となったのです。

 高校の学力上位層でネットいじめが増えている背景には、生徒が大学受験の多様な評価に対して努力しようと頑張り過ぎた結果、ストレスの発散や逃げ場としてネット空間でのやりとりを行い、その過程で齟齬(そご)を生み出していると考えられるのです。

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