群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学・教授
高校保健体育科での精神疾患教育は、約40年ぶりの再開である。1965年ごろまでの教科書には、精神疾患について「廃人同様になる、優生手術の対象」という今からは想像もできない差別的な記載があったため、70年代後半から消えた経緯があった。今回の再開は、精神疾患についての医学医療の進歩とともに、人々の理解と社会の仕組みが進んだことの表れである。
精神疾患教育は保健体育の教科で行われ、担当するのは保健体育の教員である。しかし、なじみのない精神疾患教育に、戸惑ったり重荷に感じていたりする教員が多いのではないだろうか。
精神疾患教育では、生徒自身やその家族、友達が精神疾患を抱えている場合があることへの配慮が必要となる。難しいのは精神疾患についての誤解・偏見・差別で、スティグマと呼ぶことがある。どの病気にも誤解・偏見・差別はあるだろうが、精神疾患についてのスティグマの特徴は、「人格そのものが病気」と受け取られやすいことである。
精神疾患やメンタルヘルスの問題を抱える生徒は、過去につらい経験があることが多い。自然災害や事故以上に影響が大きいのは、人間関係についての繰り返される経験である。虐待や性被害など犯罪に相当すること、親との離別や家族の精神疾患による家庭機能不全、いじめなど学校生活での出来事などの小児期逆境体験( Adverse Childhood Experiences=ACE)である。
「病気未満」のメンタルヘルスは生徒にとって身近なものなので、精神疾患より関心が持ちやすい。学習指導要領の範囲を少し超えるが、精神疾患と関連して教えることができると、生徒のメンタルヘルス向上が期待できる。
今回は、精神疾患教育の授業で求められる工夫と配慮を紹介したい。いずれも、精神疾患の特徴に基づくものである。....
高校保健体育での精神疾患教育について、今回は利用できる教材や資料を、次回は授業における工夫と配慮を紹介する。....
メンタルヘルスや精神疾患について、学校では何をどう教育すればよいのか。精神疾患教育の目標は、「行動が身に付く」ことである。....
ユース・メンタルヘルスの重要なテーマとして、ユースに身近な精神疾患を紹介する。精神疾患には多くの種類があるが、教育において大切なのは、個別の疾患を詳しく知ること以上に、多くの精神疾患に共通する特徴を理解することである。
本連載(全10回)は、2022年度から高校の保健体育で精神疾患教育が始まったことを踏まえたものだが、タイトルを「ユースの心と命を大切にする」としたように、もう少し広く「ユース世代の心の健康」を教育や学校の視点から考える機会としたい。ユースとは、中学生から20歳代ぐらいの年代を指す言葉である。初回は「ユース・メンタルヘルス」がテーマである。
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