【大学ランキング4位】 飛び立たないグローバル人材を育てる

【大学ランキング4位】 飛び立たないグローバル人材を育てる
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 「大学ランキング」(朝日新聞出版)において、群馬の小さな私立大学が上位に入り、注目を浴びている。「学長からの評価ランキング—教育面で注目」では4位、「注目する学長ランキング」でも4位にランクインしているのが、共愛学園前橋国際大学だ。学部は「国際社会学部」の1学部のみ、全学生数も1100人程度の小さな大学が、なぜここまで評価されているのか――。大森昭生学長へのインタビューを通じ、「飛び立たないグローバル人材」などユニークな教育の中身に迫った。(全3回の1回目)

なぜ群馬の小規模大学が注目されているのか

――「大学ランキング」は全国の大学の学長同士が投票しているので、いわば「大学教育のプロが見る注目すべき大学」のランキングです。ランク上位には全国的にも知名度の高い大学が多い中、共愛学園前橋国際大学がここまで注目されるようになった要因をどのように捉えていますか。

 本学のような地方の、しかも学部が一つしかない小さな大学が注目されているのは、まず文科省のGGJ・COC・AP・COC +(注)という、4つのビッグプロジェクトに同時に選ばれたことが大きいと思っています。これらのプロジェクトに選ばれるのが本当に大変だということは、他の大学の学長もご存じだと思うので、まず「この大学は何をやっているんだろう?」と興味を持っていただけたのでしょう。

 そうして、本学の実践している中身を見ていくと、例えば「飛び立たないグローバル人材」や「地学一体の学び」など、ちょっとユニークなカリキュラムが並んでいる。さらに、「地方」「小規模」はつぶれる大学の条件などと言われることもあります。実際、本学も設立直後の20年前には定員割れとなりました。全国約800大学のうち、圧倒的に多いのは地方小規模大学ですので、そういう大学の学長からすると、「どうしてあの大学はなんとかなっているのか?」という興味関心もあるのではないでしょうか。

「この大学は学生のために、群馬という地域のためにある」と大森学長
「この大学は学生のために、群馬という地域のためにある」と大森学長
――「地方小規模大学」という、いわゆるデメリットと思われていることをメリットに変えることができたポイントは何でしょうか。

 まず大学が「誰のため」にあるのか、「何のため」にあるのかについて、「覚悟」を持てたからだと思います。

 これまで地方では、学内関係者が持っている大学のイメージと、地域からの大学への期待にズレがあったと思うのです。大学側は「大学たるものウリは研究で、全国から学生が来て、世界に羽ばたく人材を育てていくものだ」というプライドを持っている。一方で、地域の人たちは地元の大学に対して「地域社会で活躍する人材を輩出してほしい」という期待を持っているわけです。

 そもそも大学は「誰のため」にあるかと言うと、学生のためです。さらに、群馬にあるこの大学は「何のため」にあるかと言うと、群馬という地域のためにあるのです。私たちがその「覚悟」を持てた時、教育の在り方が変わっていきました。

――その「覚悟」を持つには、かなりの勇気が必要だったのではないでしょうか。

 1999年に本学が設立された時、「国際社会学部」という日本初の学部を立ち上げたこともあり、全国から学生が集まってくるだろうと思っていました。また、当然、学生たちは世界に羽ばたいていくだろうと思っていました。そうしてふたを開けてみたら、まぁ、誰も来てくれない……。

 当時、「どうして学生が集まらないんだろう」と教職員でディスカッションしていると、ある教授がポロっと「地元の子が来てくれないのに、全国から来るわけがないよね」と言ったんです。それでみんな目からうろこが落ちました。

 よく、「選択と集中」が大事だと言われますが、実際にはそう簡単ではありません。できることならば、四方八方に手を伸ばしておきたい。群馬を中心にした限られた地域だけにマーケットを絞るなんて覚悟は、最初はなかなかできませんでした。それでも徐々に学生のための、地域のための教育をやっていく中で、成果が出てきたのです。

 そうして「どうもうちの大学がやっていることは間違っていないようだ」と思えてきた頃に、「地方創生」という社会的なトレンドも追い風になってくれて、本学の教育の在り方を評価していただけるようになったのです。

「飛び立たないグローバル人材」とは

地方にこそグローバル人材が求められている
地方にこそグローバル人材が求められている
――「飛び立たないグローバル人材」という、とてもユニークなビジョンを掲げられていますが、そこに込めた思いについて教えてください。

 今まさに、地方にこそグローバル人材が求められていると、私たちは認識しています。例えば、群馬県はものづくりと農業の県ですが、今どちらも超グローバル化の波の中で懸命に道を模索しています。

 また、最近は、地方と世界のダイレクトなつながりが大きなチャンスを生んでいます。以前の地方はまず「東京に出荷して」とか「東京の企業と組んで」とか、東京を経由して世界に送り出すという流れでした。しかし、今はネットワークの発達により、例えば群馬でできたこんにゃくが、いきなり世界のどこかへと売れていきます。さらに、生活の中のグローバル化も進んでいます。

 こうした産業形態を考えても、これからの地方の在り方を考えても、地方にこそグローバル人材が必要なことは明白であり、これから必要な戦略は「ダイレクトに世界とつながる地域」です。地方の活力を生む一つの力が、グローバル力になってきているのです。

 本学の学生には、大学にいる4年の間にどんどん羽ばたいて、飛び立って、いろいろなチャレンジをして、グローバル力を身に付けてほしいと思っています。現在、海外研修経験者は45.8%に上りますが、そこで身に付けた力を地元で発揮してもらう。それが「飛び立たないグローバル人材」を育てるということです。

――地元に進学したり、地元企業に就職したりする率は、実際に増えてきているのでしょうか。

 地方大学の在り方があちこちで議論されているように、まだまだ東京を見ている高校生が多いことは事実です。首都圏は大学の数も多いし、群馬では学べない分野もありますから、そこは仕方がないことだと思います。

 ただ一方で、これは主観的なことなのですが、本学の学生を見ていると、以前のように「負け組が地元に残る」という感覚はなくなってきています。特に東日本大震災以降は「意味を持って地元に残る」という学生が顕著に増えていますし、本学にも「地元の課題に取り組みたいから」という理由で進学してきている学生が増えています。

 これはやはり、高校教育で「探究」が重視されるようになり、その中で「地域研究」を始めていることが大きいと思います。そうした活動を通じて高校生が、地域をテーマにすることの面白さや意義を感じ、群馬に残ることを前向きに感じる雰囲気ができてきているのではないでしょうか。

「探究」により、「高校生が地域をテーマにすることの面白さや意義を感じている」と指摘する
「探究」により、「高校生が地域をテーマにすることの面白さや意義を感じている」と指摘する

※GGJとは「スーパーグローバル大学等事業 経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成支援」(全国42大学)、COCとは「地(知)の拠点整備事業」(全国77大学)、APとは「大学教育再生加速プログラム」(全国46大学)、COC +とは「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」(全国40大学)。全て文科省による施策で、4大事業を同時に拠点として選定されているのは全国で2大学のみ。

【プロフィール】

大森昭生(おおもり・あきお) 1968年、宮城県仙台市生まれ。東北学院大学文学部英文学科、同大学院博士課程にて研究。96年に学校法人共愛学園に入職、共愛学園前橋国際大学国際社会学部長、副学長等を経て、2016年より47歳で学長となる。21年より共愛学園前橋国際大学短期大学部学長も兼ねる。専門はアメリカ文学で特にヘミングウェイを研究。中教審の各種委員、内閣官房地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けた検討会議委員などのほか、群馬県青少年健全育成審議会会長等地域における各種公的委員を多数務め、各地での講演多数。3児を育てており、2人目・3人目の出産に際し、育児休業を取得。群馬県総合表彰(男女共同参画社会)。前橋市スーパーシティの統括アーキテクトや「めぶく。プラットフォーム前橋」副会長など、前橋市のまちづくりにおける各委員も多数務める。全国の学長が注目する学長ランキング4位(大学ランキング2022)。

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