【不安の予防教育プログラム「勇者の旅」(4)】学校現場での認知行動療法に基づく予防教育

浦尾悠子 千葉大学子どものこころの発達教育研究センター・特任講師

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 子どもたちのメンタルヘルスの問題に対し、認知行動療法を用いて「予防」するという発想は2000年ごろに誕生し、ここ20年ほどの間、西欧諸国を中心に数々の研究が行われてきました。中でも効果が高いとして世界的に有名になったのが、オーストラリアで開発された「FRIENDSプログラム」(以下、FRIENDS)です。 FRIENDSは、認知行動療法に基づく不安とうつの予防プログラムで、オーストラリア国内での研究成果が認められ、04年には「エビデンスベースのプログラム」としてWHO(世界保健機関)が推奨し、その後世界各国へと広がりました。

オーストラリアと日本の社会文化的背景の違い

 私が予防研究に着手した時期は、ちょうどFRIENDSが日本にも上陸した頃でしたので、「まずはこのプログラムについて学び、日本の学校でも活用できるようにしたい」と考えました。国内で開催されたファシリテーター養成研修会に参加して資格を得た後、実際に小学校でFRIENDSの授業を実施する機会も得ることができました。しかし、その一連の経験を通して私が強く感じることになったのは、「オーストラリアと日本の社会文化的背景の違い」でした(図参照)。

 紙幅の関係で詳細は割愛しますが、「オーストラリアで開発されたプログラムを日本の小学校で活用したり普及したりするには、あまりにも多くのハードルがある」ということに気付かされた私は、「それならば、日本の子どもたち向けのオリジナルのプログラムを開発した方がよいのでは…」と考えるようになりました。そしてそれ以降は、日本の子どもたちや先生方にとって取り組みやすい、日本の学校向けの予防教育プログラムの開発に注力することとなりました。

 ちょうど時を同じくして、『Lancet Psychiatry』という有名な医学系雑誌に、イギリスで行われたFRIENDSのランダム化比較試験の研究成果が掲載されました(Stallard et al. 2014)。その論文を見て驚いたのは、FRIENDSの実施は「心理の専門家が行ったグループ」では子どもたちの不安スコアが有意に低減したものの、「学校の教員が行ったグループ」と「プログラムを行わなかったグループ」では、スコアの変化に差がなかったという結果でした。

 予防教育は広く普及してこそ意味を成すのに、専門家が実施しないと効果が出ないプログラムでは、普及のハードルが上がってしまうのではないか…。論文を読みながら私は、「これから日本で開発するプログラムは、何としても、学校の先生方が実施することで効果が示せるプログラムにしたい」と考えていました。

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