教員の長時間勤務に歯止めを 教育研究者有志が署名を開始

教員の長時間勤務に歯止めを 教育研究者有志が署名を開始
教育研究者の有志が文科省で開いた会見
広 告

 教員の長時間勤務に歯止めをかけ、豊かな学校教育を実現させようと、大学教授ら教育研究者の有志が5月30日、全国署名を始めた。署名では「教員の勤務条件は、小中高校生の教育条件を左右する。教員が元気に働いてこそ、小中高校生は豊かな学びと学校生活が送れる」として、▽教員への残業代の支給▽学校の業務量に見合った教職員の配置▽これらを実現するための教育予算の増額――の3点を提言。今秋までに10万人の署名を目指す。

 同日、文科省で開かれた会見には5人の発起人が出席。日本教育政策学会会長で世話人を務める中嶋哲彦・愛知工業大学工学部教授は「教員は日々多忙な仕事に従事して疲れ切っている。せっかく高い志を持って教員になったのに報われない。後に続いて教員になろうとする若者も減らす結果になっている。これでは日本の学校は持たない。教育研究者として、大変強い危機感を感じた」と署名立ち上げの理由を説明した。

 さらに、「教員の労働条件は子供の教育条件を左右する。子供の豊かな学校生活を保障するためには、教員の多忙化を解消しなければならない。これは喫緊の課題となっている」と指摘。その上で、自民党特命委が5月に取りまとめた政策提言については、「与党として、この問題に取り組んでいるのは高く評価したい」と述べる一方、「特別手当と(給特法による)教職調整額の増加にとどまっており、根本的な解決にはつながらない」と断じた。

 文科省の2022年度教員勤務実態調査の速報値によると、長期休業期を含めた1月当たりの推計時間外在校等時間は小学校で約41時間、中学校で約58時間となっている。自民党の提言では、これを月20時間程度まで減らすことを念頭に、現在4%の教職調整額を少なくとも10%以上に増額することに加え、管理職手当の改善や学級担任手当の創設を盛り込んだ。一方で、時間外勤務手当については「教師は高度な専門性と裁量性を有する専門職であることを踏まえ、教師の職務の特殊性等に基づいた処遇とする必要」があるとして、現状のまま支給しない考えを示した。

 これについて、東京大学大学院教育学研究科の小玉重夫教授は「教員の労働環境を抜本的に改善するためには、残業に対してしっかりと手当を支給し、学校の管理責任者、管理職に責任を課すことが重要になる」と、時間外勤務手当を支給する必要性を指摘。中嶋教授も「時間外勤務手当の支給は教育委員会や文科省が教員に残業をさせないようにするためのきっかけになる」と同調した。

 さらに、教職員の配置について、署名では「学校の業務量は増大する傾向にあるが、少子化による児童生徒数の減少に引きずられ、各学校に配置される教職員数は減少してしまう。これでは、長時間勤務を解消できない」と強調。業務量に関係なく学級数から教職員数が算出される現在の義務標準法の仕組みは妥当でないとし、配置基準を改善し、業務量に見合った教員配置にすることが必要とした。さらに、これらの施策を実現するために、対GDP比でOECD平均を下回っている教育予算についても増額するよう求めた。

 有志は問題を世間に広く伝え、より実効的な改革に向けた施策を考えるため、署名のほかに教育研究者によるシンポジウムを複数回開催する。中嶋教授は「いろいろな立場の研究者による、シンポジウムでの議論などを通して、一つの方向性を示したい」と語る。初回は7月1日午後1時から、東京都の文京区民センターで開かれる。

 署名はChange.orgの特設ページで確認できる。また署名用紙のダウンロードも可能。集めた署名は文科相ほか、首相、財務相、総務相に提出する予定。中嶋教授は「多種多様な教育研究者や全国の学校長会にも声を掛け、教育界全体の流れにしたい」と意気込む。

広 告
広 告