【小川修史准教授】 学生が輝く「神授業」のつくり方

 敬語なし、スマホの利用は自由……。兵庫教育大学大学院学校教育研究科・小川修史准教授の授業スタイルが、SNSを中心に話題を呼んでいる。ベースにあるのは「特別支援教育の手法そのもの」で、「児童生徒の多様性を見つめるように、教員志望の学生や若手教員のそれぞれの個性を受け入れられる環境をつくりたい」と、小川准教授は語る。一般社団法人日本障がい者ファッション協会(JPFA)の副代表を務め、「スカートを履いた大学教員」としても注目を集める小川准教授の授業スタイルをヒントに、現在の特別支援教育や教員養成の在り方を考える。(全3回の第2回)

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敬語なし、スマホOKの教室

――画期的な授業スタイルが、SNSなどで話題を呼んでいます。

スカート姿で教壇に立っているという小川准教授(本人提供)

 ありがとうございます。なるべく学生の興味関心に寄り添った問い掛けや、授業運営をするようにしています。

 例えば、大学のオンライン講義は、基本的に受講側はカメラオフで、学生の表情が見えません。あまりにも寂しいので、チャット機能を活用することにしました。

 気軽に反応してほしかったので、「マジでww」「なるほど」「88888」(拍手のぱちぱちという音を表現するネット用語)など、敬語不要のルールをつくりました。すると、チャット欄が想像以上に盛り上がり、「神授業!!!」「お茶投げたいです!」(ライブ配信サービス「ツイキャス」で配信者を応援するアイテム「お茶」を送ること)など、学生特有のワードで称賛してくれて、私自身もうれしくなってしまいました。

 後日、学生にアンケートを取ったところ、「発言しやすかった」「受け身な自分が前のめりになった」「他の人の意見や考え方を知れた」「聞くだけより、断然集中できた」など、前向きな感想が並びました。任意のアンケートだったにもかかわらず、約7割の学生が回答してくれました。

――その他には、どのような実践をされていますか。

 例えば、遅刻してきた学生には「遅刻したけど、ちゃんと来られたね!」と笑顔で伝えるようにしています。遅刻して叱られるリスクがあるにもかかわらず、講義に来たことをまずは認めるのです。すると遅刻癖があった学生でも、不思議と遅刻しなくなります。時間通りに来られたら「遅刻せず、よく来たね!」と声を掛けます。学生がうれしそうに笑う姿を見ると私もうれしくなります。

 また、講義中はスマホの使用を許可しています。分からないことがあったときに検索したり、ノートを取る代わりに板書を写真に撮ったりといった形で活用できます。スマホの利用の弊害を考えるよりも、障害の有無にかかわらず学ぶ意欲のある学生が、快適に学べる環境を提供する方が大切だと感じたのです。

 例えば、スマホで撮影したデータはレジュメに書いたメモのように行方不明になる可能性が低いですし、ノートに書き写す時間の節約にもなります。それだけでなく、障害やけがで書くことに困難さがある学生にとっては、学習する上での配慮になります。「カメラのシャッター音を1いいねと解釈するので、音をどんどん鳴らしてください」と呼び掛け、私も記者会見場のようにシャッター音が鳴り響く雰囲気を楽しんでいます。

 さらに、大学の講義は90分間と長いので、休憩時間を途中で設けたり、教室の出入りを自由にしたりしています。

 例えば、過敏性腸症候群といって、精神的ストレスや自律神経失調などの原因で腸が刺激に対して過敏な状態になる病気があります。授業中は「お手洗いに行けない」という不安感がストレスを生み出し、直前にトイレに行っていたとしても便意が生じてしまいます。気軽に教室の外に出られる環境を準備することで、ストレスなく授業に参加することができるのです。

子どものポジティブを引き出す教師に

――そうした風通しの良い学習環境をつくるベースには、何があるのでしょうか。

 学生に対する接し方自体にも、私の専門である特別支援教育の考え方がベースにあるように思います。

 例えばポジティブ行動支援(PBS)という理論があります。PBSは、ポジティブな行動をポジティブに支援するための枠組みです。知的障害や発達障害の人は、ネガティブな情報に、特に弱いと言われています。例えば、忘れ物をした場面で「忘れ物が多すぎる」と注意を受けると、「私は忘れ物をしてしまうから、人として駄目なのだ」と極端な発想をしてしまうことすらあるのです。そのため、ポジティブに支援する枠組みの有効性が明らかになっています。

 学生には、「皆さんがいつか教師として教壇に立つ日が来たら、児童生徒の意欲やモチベーションを大切にしてください。ネガティブな情報ばかりに着目するのではなく、児童生徒のポジティブな情報に着目し、支援できるようにしましょう」と指導しています。私自身も学生にそのような態度で接しています。こうした態度で接することで、学生が何か感じてくれたら嬉しいなと思います。

――そのような授業スタイルは魅力的ですが、小中高ではなかなか実現できないのが現状ではないでしょうか。

 そのまま小中高で実践するのは難しいと思います。実践を真似するのではなく、「考え方」を真似していただけると嬉しいです。その点を、人間の習性を踏まえて説明します。

 人間は、周りの情報に影響を受けやすい習性があります。そのため、もし、自分の周りにネガティブな情報ばかりが集まってしまうと、頭や心の中もどんどんネガティブな方向に引っ張られてしまうのです。そうなると「私は駄目な人間だ」と自己肯定感が下がり、不登校や非行などにもつながります。

 例えば、私はJPFAの一員としてファッションに関わる以前は、自分の身なりに関してネガティブなことばかり考えていました。服を選ぶ基準は無難で目立たないことが最優先でしたし、服を選ぶことも楽しめませんでした。しかし、「スカートをはいてみると『おしゃれだね』と声を掛けられた」というポジティブな要素を一つ見いだせたことがきっかけで、どんどんポジティブな方向に思考が転換し始めました。

 このように、ポジティブな情報を子どもたちに提供することで、ポジティブに変容する可能性があります。だからこそ、教え子がいつか教壇に立ったときには、児童生徒のポジティブを引き出せるような教師になってほしいと思います。そのために、まずは私自身がポジティブな情報を提供するように意識しています。

 具体的に、学生に対してネガティブなことは極力言わないようにしています。例えばレポートを忘れた学生がいたとしても、「そんなことでは社会人になって困るぞ」などとたしなめたり、ペナルティーを与えたりはしません。「あなたは発想力があるはずだから、とりあえず今ここで考えてごらん。きっと思いつくはずだよ」というように、相手の能力を認めた上で言葉を掛けるようにしています。

 小中高の先生方でも、ポジティブな情報を提供することはできるはずです。スクールワイドPBSと言って、学校単位で実施されている学校もありますので、是非参考にしてみてください。

教員志望者や若手の個性を受け入れる

――どうしてそのように学生と関わるようになったのでしょうか。

 先ほど話したように、私自身も決してポジティブな人間ではありませんでした。SNSで反響のあった学生時代のエピソードを一つ紹介します。和食店でアルバイトをしていたときの話ですが、不注意傾向の強い私は連日ミスばかりで、店長からクビを通告される寸前でした。そこに手を差し伸べてくれたのは、当時の料理長でした。タイマーやチェックリストを用意して、うまく働けるように配慮してくれたのです。さらには、「彼は真面目だから、工夫さえすればできる」と店長に進言してくれました。

 仕事には厳しい料理長でしたが、私のことをよく見て強みを見つけ出し、生かそうとしてくれました。こうした手法は障害者支援の基礎と言えますし、私の教育実践のベースになっているように思います。

若手教員や教員志望の学生の、それぞれの個性を生かす視点が大切だと強調する

 だから、教え子をはじめ子どもや若者にも、自分の個性を誰かに受け入れられる経験をしてほしいと思っています。「個性」は学校だとマイナスに捉えられがちで、「問題児」「変わった子」と勘違いされてしまうこともあります。そうではなく、私は個性的な学生ほど「面白いね」と受け入れるようにしています。私自身が、受け入れられることで救われてきたからです。

――そうやって接してもらえると、ポジティブな考え方ができるようになったり、困難にぶつかった時の自信につながったりするのかもしれないですね。

 その通りだと思います。何度も学生と接するうちに、表情や発言が輝きだすことがあります。私自身は覚えていないのですが、卒業生から「あの時、先生に『天才やん!』と褒めてもらえたから頑張れました」と言ってもらえたこともありました。

 学生は、一人一人が能力の塊です。そして、環境次第でどんどん変わっていきます。実は、教員養成で必要なことは、シンプルに目の前にいる若手教員や教員志望学生をじっくり観察して、「どうやったらもっと個性を生かせるかな」と考えるだけで良いと思っています。

 几帳面な先生もいれば、発想豊かな先生もいます。几帳面な先生は児童生徒の提出物を丁寧に丸付けして信頼を得ればいいし、発想豊かな先生は個性的な授業実践で児童生徒を引きつければいい。しかし、今の学校教育はどの先生にも同じようなスキルを求めてしまっていて、先生自身の多様性を受け入れられていません。その結果、先生もどんどん苦しくなっているように感じます。

 児童生徒と同じように、若手教員や教員志望学生一人一人に合わせて個性を引き出そうという発想さえあれば、学校教育を取り巻く状況は変わってくるように思います。

 そのためには、今の社会にある多様性をアップデートしないといけないかもしれないですね。

(板井海奈)

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【プロフィール】

小川修史(おがわ・ひさし) 兵庫教育大学大学院学校教育研究科・准教授,博士(工学)、専門は教育工学と特別支援教育。2019年12月に(一社)日本障がい者ファッション協会(JPFA)副代表に就任、21年3月よりミライの制服プロジェクト・代表。現在に至る。

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